【6月30日 AFP】日本男子シンクロナイズドスイミング界の第一人者、安部篤史(Atsushi Abe)さん(32)は、都内で5月に開催された国内大会に出場したが、寄せられた意見には、「メークがおばちゃん」、「ひどい髪形のドラキュラ」といった「厳しい」ものも少なくなかった──だが、7月にロシアで開催される世界水泳選手権の混合デュエットに日本代表として臨む安部さんにとっては、髪形やメークなどは所詮ささいな問題でしかないようだ。

 シンクロナイズドスイミングチームを結成した男子高校生たちを描いた大ヒット映画『ウォーターボーイズ』を見て、この競技に取り組み始めたという安部さん。水泳競技の統括団体である国際水泳連盟(FINA)が男子の出場を認めて以降、男子の参加に懐疑的な人々を納得させることが、どれほど重要であるかを痛切に感じるという。

 ペアを組む足立夢実(Yumi Adachi)さんとのトレーニングを終え、AFPのインタビューに応じた安部さんは、「過去にも男性のシンクロ選手は大勢いたが、なかなか日の目を見ることはなく、地道にやる以外にやりようがなかった。そのような流れの中での今回のミックスデュエットという新種目なのです。僕は本当に、(先人たちに対して)ただただ感謝をしなければならないと思っています」とあくまで謙虚な姿勢だ。

 そして「彼らがいたからこそ、こういったミックスデュエットなど、男性のシンクロの世界が広がっていくことができたのです。なのでその努力に感謝をしつつ、今は、もう同志として、これからもっともっと盛り上げていけたらという思いがあるのです」と言葉を続けた。

 世界選手権が開催されるロシアは、今世紀に入ってからのすべての五輪大会で金メダルを獲得しているシンクロ王国だ。安部さんは、この国が同競技への男性の参加に最も強く反対している一つであることを重々承知している。ロシアでは水泳選手ばかりでなく政治家たちも、その牙城が崩されかねないとしてFINAの決定に反発しており、また同国政府が精力的に打ち出す「伝統的な男らしさ」のイメージとも食い違うものになっている。