■「天才」なのか?

 第3段階では、飼育施設の端に生のサツマイモ片を置き、それをどうするかを観察した。チンパンジーはサツマイモ片をそのまま食べることもできたし、4メートル離れた場所に置かれた器具で「調理」することもできた。

「1匹が最初に調理を選択した時、単にこの個体が『天才』なのだと思いました。ところが、最終的にはほぼ半数が調理を選択していました」(ロサティ氏)

 さらに研究チームは生のにんじんをチンパンジーに与えた。すると、にんじんを「料理する」過程を見せられていなかったにもかかわらず、チンパンジーは調理器具を使う意図を示した。また生のサツマイモと木片を与えられると、チンパンジーは食べ物だけを容器に入れた。研究チームは、これは彼らが「調理器」が何であるか理解していることを示唆するものだと述べている。

 チンパンジーは調理をしない。火を使いこなすことができないので、食べ物もわれわれ人間のものとは違う。人間は友人や家族などのために調理して、それを分け合うこともできる。

 しかし、研究者らによると、チンパンジーにも人間と同じような調理のための基本的な「認知能力」が備わっているという。

 これらの認知能力が共通の先祖から与えられたとの考えに基づくと、もう一つの重要な出来事──人間はいつ火を使いこなすようになったのか──についての洞察を得ることもできそうだ。

 通説では、現生人類の祖先を含む霊長類のヒト族は、護身または暖をとるために火をコントロールする方法を習得し、後に料理のために火を使用したとされている。

 研究チームは、調理そのものが火を制御する動機になった可能性すらあることを指摘し、「今回の研究は、初期のヒト族が火を制御するよりも前からその利点を理解し、食べ物を火の上に置くことで生じる結果についても推論していたことを示唆している」と述べている。(c)AFP/Richard INGHAM