【6月2日 AFP】南フランスのリゾート地、カンヌ(Cannes)のビーチ。ここでバカンスを満喫する観光客や映画スターたちは気付いていないかもしれないが、キラキラと輝く波の下には、海洋環境の改善を目的に意図的に沈められた廃タイヤ数万個が沈んでいる。このタイヤが厄介な問題を引き起こしている。

 1960年代には、廃タイヤによる人工魚礁は、すべての関係者にメリットをもたらす構想だと考えられていた。タイヤを海中に沈めて人工魚礁を作れば、海洋生物の定着・繁殖のための環境を整えると同時に、漁業を活性化し、さらには不要廃棄物も一挙に処分できると期待された。しかし、それから数十年が経ち、数百万個のタイヤが海に沈められた結果、当初の狙いとは逆に汚染問題への懸念が広がっている。

 南仏の海岸では、当局がタイヤ約2000個を回収する試験的な作業に着手した。最終的にはカンヌとアンティーブ(Antibes)間の海に沈むタイヤ2万5000個すべてを回収する大掛かりな作業となる可能性もある。

 人工魚礁が素晴らしい構想だと考えたのはフランスだけではない。専門家によると、タイヤで作られた人工魚礁は世界全体に約200例が存在し、特に米国や日本、マレーシア、イスラエルの沖合に多くみられる。

 問題は、海流によってタイヤが引きずり回されて傷だらけになると、海洋生物が魚礁に定着しないだけでなく、生態系全体にも悪影響を与えてしまうことだ。環境保護団体ロビン・フッド(Robin Hood)のジャッキー・ボンネスマインス(Jacky Bonnemains)氏は「傷が付いていく過程でタイヤから重金属が溶け出し、これが海洋生物にとって有害な環境となる」と指摘する。また仏海洋保護当局によれば、タイヤの魚礁はコンクリート製のものに比べて、海洋生物の定着率が4割ほど低いという。

 世界的にみると人工魚礁設置に最も積極的なのはフランスではない。フランスにおけるタイヤの人工魚礁の規模は大型船舶の容積とほぼ同じ9万立方メートル。これに対し、日本は約2000万立方メートルに上る。米国では海岸線沿いに設置された人工魚礁は1000か所を超え、フロリダ(Florida)州沖では1972年に約200万個のタイヤが沈められた。

 そもそも廃タイヤの人工魚礁は、米タイヤ製造大手グッドイヤー(Goodyear)が発案したものだった。ボンネマインス氏は「グッドイヤーは漁師や海にとって役立つと触れ回り、海中への廃棄物投棄を有用であるように見せかけた」という。

 現実は違った。フロリダや他の地域でも、嵐や海流の影響でタイヤが魚礁から分離して、海岸に打ち上げられた結果、環境に悪影響を及ぼし、皮肉にも天然のサンゴ礁を破壊してしまっている。こうした事態を深刻な脅威と受け止めたフロリダ州環境当局は2007年、タイヤの除去作業を開始したが、処理すべきタイヤの数の多さに当惑している様子だ。(c)AFP/Sandra FERRER