【5月29日 AFP】国際サッカー連盟(FIFA)の幹部らが27日、大規模な汚職容疑で逮捕された事件で、広範にわたる捜査においてカギとなる役割を果たしたのは、かつて米国サッカー界の最重要人物と言われたチャック・ブレイザー(Chuck Blazer)元FIFA理事だった。

 スイス・チューリヒ(Zurich)での逮捕劇で、かつて自らもFIFA幹部だったブレイザー元理事が重要な役割を果たした事実は、世界で最も人気のあるスポーツとされるサッカーを飲み込もうとする政治と陰謀の渦に絶えず注視している者には、皮肉としか映らないだろう。

 ブレイザー元理事は選手出身ではないが、米国のサッカーを育て上げ、FIFAや政界の重要人物との個人的なパイプを利用して、国際舞台における米国サッカーの利益を推進したとされる。過去に北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)事務総長、FIFA実行委員などを歴任。鋭いビジネス感覚によって、FIFAを利益を生み出すマシーンに育て上げたのはブレイザー元理事だとされ、一部で高い評価を得ていた。

 一方、豪傑肌で好戦的な性格のブレイザー元理事に対する米国内、さらにFIFA幹部周辺での評価は元々割れていたが、急速に信用が失墜し始めたのは2013年だ。サッカー界の陰の実力者としての地位を乱用し、プライベートジェットや5つ星ホテルといったぜいたく三昧の生活を送っているとの批判が高まり、ブレイザー元理事はこの年、FIFAから停職処分を受けた。数百万ドルの見返りを要求してきたことが明るみになると「ミスター10%」と呼ばれ、揶揄(やゆ)された。

 同年11月、ブレイザー元理事は、恐喝や通信詐欺、資金洗浄(マネーロンダリング)などの共謀や脱税、外国金融口座報告書(FBAR)の申告漏れによる有罪を米当局に認めた。このうち、脱税とFBAR報告義務違反だけで最長15年の実刑を科される可能性が残っている。

 米ニュースサイト「バズフィード(BuzzFeed)」によると、元理事はサッカー関連で2100万ドル(約26億円)を超える利益を得て、その多くを租税回避地に登記されている実態のない企業に流したとされる。また飼い猫のための高級マンションを含む、世界中の高級不動産の購入資金にも充てたと伝えられている。

 米タブロイド紙ニューヨーク・デーリーニューズ(New York Daily News)は、ブレイザー元理事が米連邦捜査局(FBI)と米税務当局に命じられ、小型マイクが仕込まれたキーホルダーでFIFA幹部たちの会話を録音していたと報じている。ブレイザー元理事が提供したこうした証拠が、今回の逮捕劇につながったという。

 当局はブレイザー元理事が莫大な収入を得ていたにもかかわらず、10年以上、納税していなかった点を追及し、脱税行為で起訴する構えを見せて元理事を脅し、2011年から捜査に協力させてきたと、同紙は伝えている。また現在70歳の元理事は結腸がんを患っているとも報じている。(c)AFP