【5月26日 AFP】もしも車同士が互いに「話す」ことができたなら、多くの交通事故を回避できる――技術者たちは以前から、こうした考えを巡らせてきた。周囲の車や路上の障害物、カーブの死角にいる歩行者などの情報がわかっていれば、もっと安全に運転できるというわけだ。

 このようなシステムを導入するまでには、法整備や車両間(V2V、Vehicle-to-Vehicle)通信用の周波数割り当てなどハードルは数多いが、米政府も対応姿勢を見せている。アンソニー・フォックス(Anthony Foxx)運輸長官は今月、交通安全の向上や自動運転車の普及のためにも年内にはV2Vに関する規制を整備したいと、シリコンバレー(Silicon Valley)で語った。

■命を救う技術


 2012年からV2Vの試験を行っている米道路交通安全局(National Highway Traffic Safety AdministrationNHTSA)によれば、V2V通信はさまざまな交通の安全を実現させる技術だ。例えば対向車の速度を計算した安全な左折(右側通行の場合)、前方車両追い越しの判断、見通しの悪い交差点への進入見極めなどだ。

 研究者らの試算では、V2Vの搭載費用は1台あたり約350ドル(約4万3000円)。これで1年におよそ59万2000件の事故が回避でき、1083人の命が救われるという。

 だが、努力が実を結ぶまでには時間が必要だ。V2V搭載を全ての新車に義務付けたとしても、未搭載の車両が路上から消えて全てがV2V搭載車に置き換わるまでには何年もかかる。V2V対応に向けた道路インフラのアップグレードも同様だ。スマートフォン(多機能携帯電話)やタブレット端末の利用者が急増するなかでの周波数確保も、規制当局が直面する課題の一つだ。

 技術的な問題の他にも、V2V通信で問題が発生した際の法的責任の所在や、新たに構築したデータベースに関するプライバシーなどの問題もある。

 リバタリアニズム(自由至上主義)の米シンクタンク、ケイトー研究所(Cato Institute)のシニアフェロー、ランダル・オトゥール(Randal O'Toole)氏はV2V通信について、車が故障した場合に他の車へ情報を送信して違うルートを通行してもらえば渋滞を防げるとの利点をあげたうえで、システムがハッキングされる危険性をブログで指摘する。「うまくいきそうに見える。だが、誰かがシステムを乗っ取って信号を送りまくったらどうなるだろう?何百、何千もの交差点で混乱が生じ街全体の交通がシャットダウン状態に陥る」

 また、V2Vが他の車両や道路インフラとの通信に依存するシステムであることから、当局側の判断で一方的に車を止められてしまう可能性もあると付け加えた。(c)AFP/Luc OLINGA