【4月22日 AFP】物理学者のチームは21日、ストロンチウム原子を用いた「光格子」時計をこれまでで最高の精度にまで高めることに成功したと発表した。150億年で1秒の誤差も生じないという。これは宇宙の年齢よりも長い時間だ。

 これにより「光格子」時計の精度は、これまでのものに比べて約3倍向上したという。研究論文が英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された。

 今回の進歩により、科学は時間計測の現行基準の切り替えに一歩近づくことになる。世界共通の標準時間である「協定世界時(Universal Coordinated TimeUTC)」の設定には、現在はセシウム原子泉方式の原子時計が使用されているが、「正確で高精度の光学原子時計は、世界の時間計測に転換をもたらす可能性がある」と論文の執筆者らは記している。

 正確な時間計測は、人工衛星測位システム、携帯電話、デジタルテレビやその他の用途に不可欠な上、量子科学などの研究分野において未知の領域を切り開く可能性を秘めている。

 時間の世界公式単位である「秒」は1967年以降、セシウム133原子の振動数を基準として決められている。その測定方法は、大型振り子時計の振り子の揺れを測るのと似ている。

 世界標準時の設定に使われている機器のセシウム原子泉方式の時計は、この数十年間で精度が著しく向上し、1億年に1秒以内の誤差で時を刻むことができるようになっていた。だが、セシウム時計に使われるマイクロ波振動数よりはるかに高い光振動数のストロンチウム原子を用いて機能する最新型の実験的光学時計は、セシウムを用いた時計よりもさらに精度が高いことが近年明らかになっている。

 今回の最新研究で使用された時計は、赤色レーザー光で閉じ込めたストロンチウム原子の「時間刻み」の振動を検出し、時間を計測する。研究で使われた時計は、米国立標準・技術研究所(National Institute of Standards and TechnologyNIST)と米コロラド大学ボルダー校(University of Colorado at Boulder)の科学者チームが開発した。

■常温で運用可能

 研究チームによると、今回の光学時計は、地球上の異なる高度における時間の流れの微小な違いを測定できるほど高精度だという。この微少な現象については、アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)が約100年前に言及していた。

 アインシュタインの相対性理論では、重力による影響で、山の頂上はふもとより時計の進み方が速くなるとされている。

 論文共同執筆者のジュン・イェ(Jun Ye)氏は「われわれが今回達成した性能は、時計を地面から2センチ持ち上げるだけで、この重力による変化を測定できることを意味する」と説明する。

 研究チームはまた、ストロンチウム時計の原子を閉じ込める容器の周囲に熱放射シールドを設けた。これにより、極低温環境ではなく室温での運用が可能になる。

「これは実際に、われわれのアプローチの最大の利点の一つだ。この利点により、シンプルで標準的な機器構成で時計を運用できる」とイェ氏は話している。(c)AFP