■上昇する従属人口指数

 現在、インドの60歳以上人口は1億人を超える。2050年までに3億人以上に増え、全人口の2割を占めるようになると、慈善団体の「ヘルプエイジ・インディア(HelpAge India)」は予想している。このように従属人口指数(生産年齢人口に対し、年少人口と老年人口の合計が占める比率)の上昇に加え、高齢者の購買力が拡大し、高齢者入居施設の需要を押し上げている。

 不動産会社ジョーンズ・ラング・ラサール(Jones Lang LaSalle)インド現地法人のコンサルタント、マニシュ・クマール(Manish Kumar)氏によれば、高齢者入居施設の年間需要は現在3万1200戸程度だが、新規計画は1万~1万5000戸で追いついていない。

 高齢者はそうした居住区内の不動産を購入するか、あるいはマントリさんのように、一部払い戻し可能な権利金を払った上で毎月の賃貸料を支払う。マントリさんの施設で最も高い部屋の権利金は約350万ルピー(約675万円)で、これは退去時あるいは死去した場合に75%が払い戻される。月額賃料は1万ルピー(約2万円)で、食事代は別だ。

 他方、多くの人々は、このような施設に入居する余裕がない。国営老人ホームは環境が劣悪な一方、高齢者が自分の子供に虐待される事件は社会問題化しているという。

 さらにインドの高齢者の約90%は、小作農や家族経営の会社などで働いていたために年金が受給されていないと、ヘルプエイジ・インディアのムンバイ支部ディレクター、プラカシュ・ボルガオンカール(Prakash Borgaonkar)氏は指摘する。政府から生活保護を受けられるのは、貧困ライン以下で暮らす人たちのみ。しかも、たとえ受給資格があっても、容易にはもらえないという。

 ボルガオンカール氏は「社会が急速に変化し、家族で扶養するシステムが崩壊しつつあるため高齢者は孤立し、放置されている」と述べ、人口動態の変化にともなった高齢者福祉の政策が必要だと訴えた。(c)AFP/Rachel O'BRIEN