■象徴文化の存在

「少なくともしばらくの間は、これが世界初の装身具です」とラドブチッチ氏は言う。従来世界最古とされていたのは、イスラエルの遺跡で発掘された約11万年前の貝殻の装身具で、現代に生きるわれわれの先祖である解剖学的現代人(Anatomically Modern Humans)とのつながりが指摘されていた。

 また、研究チームはクラピナ遺跡のワシ爪の装身具について、ネアンデルタール人が長年信じられてきた説に反して複雑な認知思考技能を持っていたことを示すものだと語る。ラドブチッチ氏は「これは抽象的思考の例です。欧州に現生人類が出現するより約8万年早く、ネアンデルタール人に象徴文化があったことを証明しています」と強調した。

 翼を広げた長さが2メートルを超えるワシは、ネアンデルタール人の生活環境でも有数の強烈な印象を与える空飛ぶ捕食者であり、特別な価値を持っていたと思われる。「ネアンデルタール人はワシを称賛の目で見ていたと私は考えています。それを物語っているのがこの装身具です。何を意味するかは不明ですが、ワシの特徴にあやかりたかったのでしょう」とラドブチッチ氏は語った。

 クラピナ遺跡に関する新たな研究は、ネアンデルタール人を「不器用でばかな動物」とする大衆文化の偏見を解消する上で一役買いそうだ。若手研究者のラドブチッチ氏は、「誰かのことを『ネアンデルタール人』と言うと、中傷しているような響きがあります」と指摘した。

 欧州の有史以前の遺跡でワシ爪が発掘されることはまれで、2個以上出土する事例は極めて少ない。クラピナは、ワシ爪が8個も発掘された唯一のネアンデルタール人の遺跡となっている。(c)AFP/Lajla VESELICA