【3月23日 AFP】数多くの人が命を落とし、原子力発電所の事故も起きた2011年3月の東日本大震災──現代美術作家の奈良美智(Yoshitomo Nara)氏(55)は、この震災の影響から創作意欲を一時的に奪れたと話す。現在、香港(Hong Kong)の複数のギャラリーで大規模な個展を開催している奈良氏は、AFPのインタビューに応え、震災による影響や今後の展望について語った。

 にらむような目をした少女や動物を、一見するとシンプルで漫画のようなスタイルで描くことで知られる奈良氏。先の震災では、物理的な破壊が起きただけでなく、精神的にも大きく打ちのめされたと話す。

 震災から4年後、奈良氏は香港での個展で作品「LIFE IS ONLY ONE!」を発表。頭蓋骨を手にする無邪気そうな女の子が描かれたこの作品では、死と命のはかなさに焦点が当てられているようにも見える。亜洲協会香港中心で開催中の個展も「LIFE IS ONLY ONE!」とのタイトルが付けられた。

 AFPのインタビューでは、震災が日本のアートシーンに与えた影響、訪れてみたい場所、米ドラマ『スタートレック(Star Trek)』で「ミスター・スポック(Mr. Spock)」役を演じ、最近他界した俳優のレナード・ニモイ(Leonard Nimoy)氏にまつわる話などを聞くことができた。

■東日本大震災の影響

記者:亜洲協会香港中心で開催されている奈良さんの個展「LIFE IS ONLY ONE!」を見ました。作品からは死や命のはかなさに焦点を当てているような感じを受けましたが、福島で起きた災害から影響を受けたのでしょうか?

奈良:私は福島原発から約100キロ離れた場所に住んでいます。そして青森県弘前市で生まれました。私の母は今もそこに住んでいます。いつも(実家に)帰るときは(津波の被害を受けた場所を)通ります。この美しい場所で惨劇が起きた時、自分がどういう風に感じたかを想像できますか。あまり知られていないけれども、僕も地震の被災者なんです。(自宅の)近くでは、古くからある有名な窯元が数多くあって、その多くは破壊され、そしてもはや誰も修復できないのです。

記者:歴史の一部が破壊されたということですか?

奈良:そうです。もちろん家も壊れたし、他にも色々とあった。今回の震災では多くの人が津波で亡くなっているため、あまり地震による被害はクローズアップされていない。けど、(地震の)被害自体は非常に広範囲で発生した。(福島原発から100キロしか離れていないので)みんなから逃げろと言われたよ。僕は今もそこに住んでいるけどね。