■報道倫理を支える不正発見ソフト

 世界報道写真財団は昨年、撮影後の画像処理に関する規範を発表した。AFPなど主要国際ニュースメディアが採用している基準とほぼ同じだ。何らかの要素を追加したり削除したりすることは、絶対に許されない。例外はカメラのセンサーについたちりが写り込んだ場合に、フォトショップで消すことができるだけだ。

 写真の情報内容を改ざんしない限りであれば、色やトーン、コントラストを多少調整することは認められている。水平線をまっすぐにするなど画像の回転も多少許されている。トリミングも大体は許される。しかし縮小や引き伸ばしはだめだ。

 画像修正ソフトの普及に加え、ねつ造写真もがソーシャルメディアで広まる現状は、フォトジャーナリズムの周辺に陰謀説の登場さえあおっている。そのため世界報道写真財団のような組織は基準を厳格化し、ニュースメディアはそうした不正を自分たちで見抜く技術を導入するようになった。

 例えばAFPでは「タングステン(Tungstene)」と呼ばれるソフトウエアを使っている。使用法は複雑だが、このソフトウエアのおかげで11年には、ソーシャルメディアに出回っていたウサマ・ビンラディン(Osama bin Laden)の死体画像がねつ造だったことを見抜くことができた。

 AFPの編集者たちは日々、このソフトウエアを使って疑わしい写真を分析している。最も気をつけているのは、注意が必要だと分かっているAFP以外のソースから入手した写真だ。例えば北朝鮮やシリアの政府、さまざまな反乱組織、イスラム過激派組織「イスラム国(Islamic StateIS)」などが公開した写真は要注意だ。

 タングステンは嘘の写真を見抜くだけではなく、信じ難いほど「出来過ぎ」な写真に疑惑の目が向けられたとき、真正性を保証する役割も果たしてくれる。例えば12年の中国の春節で、フィリピンから来た火吹き芸人を撮った素晴らしい写真。炎の形のせいで信ぴょう性が疑われたが、分析した結果、何の加工もされていなかった。陰謀論者が何を言おうとも、才能とチャンスと運が重なれば、フォトショップでも真似できないような写真が撮れるのだ。

フィリピン・マニラの中華街で火を吹いて見せるパフォーマー。写真を見た一部の人たちから加工が疑われたが、不正はなかった(2012年1月22日撮影)。(c)AFP/NOEL CELIS