■分裂する欧米

 シリアの首都ダマスカス(Damascus)をたびたび訪れている欧州の外交筋によると、EU加盟国内ではアサド大統領の扱いをめぐり分裂が起きている。

 マニュエル・バルス(Manuel Valls)仏首相は先月、アサド大統領を「虐殺者」と呼んだが、「フランス、英国、デンマークがシリアの将来においてアサド氏のいかなる役割をも拒絶しているのに対し、多くのEU加盟国は内戦が5年目に突入する中、そのような見方は支持できないと考えている」と、この外交筋は説明する。スウェーデン、オーストリア、スペイン、チェコ、ポーランドは、アサド大統領を孤立させても益はないとみており、EUとして態度を軟化させたい構えだが、大国ではないそういった国々の意見は聞き入れられていないのが現状だという。

 一方、ジョン・ケリー(John Kerry)米国務長官は先日、アサド大統領について「うわべだけの正当性を全て失った」と述べつつ、「しかし、われわれにとって、ダーイシュ(Daesh、ISのアラビア語の略称)の掃討に勝る優先事項はない」と発言。アサド大統領に対する欧米のスタンスが変化したことが示された。

 15年前の大統領就任直後こそ改革者とみなされていたアサド大統領は、2011年に始まった反体制派のデモを暴力的に鎮圧したことで国際社会から爪はじきにされた。だが、国連(UN)のスタファン・デミストゥラ(Staffan de Mistura)特使も、最近「アサド大統領もシリア問題の解決策の一部だ」と発言し、反体制派を激怒させている。

「バッシャールのシリア:独裁政治の解剖(Bashar's Syria: Anatomy of an Authoritarian Regime)」と題した著作のあるジュネーブ国際開発研究大学院(Geneva Graduate Institute)のスヘール・ベルハジ(Souhail Belhadj)氏は、こう指摘する。「欧米もアラブ諸国もトルコも、公式には対話を拒否している相手かもしれない。それでも、シリア政府、特にアサド大統領は、国際社会にとって対話の相手だ」