【3月9日 AFP】2月からインドの首都ニューデリー(New Delhi)でAFPの写真記者として働くことになった。その週のビッグニュースは鉄道予算の発表だったので、それを少し変わった視点から物語る写真を撮影しようと私は狙っていた。

 目をつけたのは、いつだったか話に聞いたニューデリー郊外のロニ(Loni)駅だ。毎朝、首都へ通勤・通学する大勢の乗客が、列車の屋根によじ登ったり窓からぶら下がったりしながら通過する。その週はインド中のAFPカメラマンが、鉄道予算を象徴するインパクトの強い写真の撮影を目論んでいた。ロニ駅でなら素晴らしい写真が撮れると思った私は、予算発表の前日にロニへ向かった。

 朝8時までに駅に着いていなければならず、撮影にぴったりの場所を見極めるのにも苦労した。最終的に、駅から出てきた列車がこちらへ直進してくる様子が撮れる踏切のあたりにカメラをセットした。

 ニューデリーは世界でも最も人口密度が高い都市の1つだ。市内だけでは2500万人もの生活を支えきれないので、多くの人が郊外に広がるデリー都市圏(National Capital Region)に散らばる衛星都市に住み、毎朝市内に通ってくる。

 ロニ駅を通る路線の乗車率は、100%を優に超えている。そのため、乗り切れなかった人たちは列車の手すりやドア、窓にしがみついたり、屋根の上に登ったりして、市内まで数キロの道のりを行く。乗り心地が悪いだけではない。写真を見れば一目瞭然、学校や会社に通うために彼らは命を危険にさらしている。

 列車の運行速度は通常と変わらないため、ものすごいスピードだ。たいていの乗客は列車が駅に停車している間によじ登るが、中には既に発車した車両に飛びつく人もいる。他の乗客に引っ張りあげてもらう人もいて、極めて危険だ。

 混雑しているのは列車だけではない。踏切の操作を担当する男性と話をすることができたが、彼がなかなか遮断機を下ろさないため、既に定刻から遅れて運行している列車が発車できない光景を見た。彼は駅長から遮断機を下ろせと叱られていたが、問題は道路の大渋滞だった。車だけでなく、トラクターやトラック、さらには水牛の群れまでが、踏切の中になだれ込んでいた。