【3月4日 AFP】ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)の受賞者を選考するノルウェー・ノーベル賞委員会(Norwegian Nobel Committee)は3日、トルビョルン・ヤーグラン(Thorbjoern Jagland)委員長(64)を解任した。同委員会の長い歴史の中で、委員長が解任されたのは初めて。

 世界が注目する同委員会で6年間委員長を務めたヤーグラン氏の後任には、副委員長だったカーシ・クルマン・フィーベ(Kaci Kullmann Five)氏が昇格する。クルマン・フィーベ新委員長は記者団に対し、「委員会内では、トルビョルン・ヤーグラン氏は6年間良き委員長だったという意見で一致した」と述べるにとどまり、この決定に関するコメントは差し控えるとした。

 同委員会は、同国の元首相でもあるヤーグラン氏は委員にはとどまるとしているが、この降格人事の理由については明らかにしていない。

 ヤーグラン氏は2009年の委員長就任直後に、当時米大統領に就任して間もないバラク・オバマ(Barack Obama)氏にノーベル平和賞を授与したことで強い批判を受けた。オバマ米大統領の受賞は世界だけでなく、オバマ氏本人も驚かせた。大統領職に就いてまだ9か月足らずで、米国はアフガニスタンとイラクで同時に戦争を続けていたからだ。

 2010年には中国の反体制作家、劉暁波(Liu Xiaobo)氏がノーベル平和賞を受賞したことで、ノルウェーと中国の関係は悪化した。

■政治色が強まるのか

 今回の人事をきっかけに、1901年以降ほぼ毎年平和賞を授与してきたノーベル賞委員会が、今後政治色をより強く打ち出し始めることになるのかどうか、疑問も生まれている。

 ヤーグラン氏の降格は、ノルウェーの2013年総選挙で勝利した右派政党によって委員の過半数が指名されているという政情の変化を反映している。

 委員会を構成する5人の委員はノルウェー議会に任命されてきたが、委員会はあくまで独自の判断で受賞者を選考してきたと主張している。

 しかしノーベル賞に詳しい歴史家のアスル・スベーン(Asle Sveen)氏は「このことは右派政権がこれまでの慣行以上により強い政治的影響力を行使しようという狙いとも解釈できる」という見方を示すとともに、中国は圧力をかけてきた成果が出てきたと解釈するかもしれないと指摘した。

 さらに深刻な懸念の声も上がっている。日刊紙アフテンポステン(Aftenposten)編集者のハラルド・スタングヘレ(Harald Stanghelle)氏は、「今回の人事で、ノーベル賞委員会の委員長と新与党の政治色を結び付けるという新たな原理が生まれることになる」と指摘し、「そうなると疑問が湧いてくる。同委員会が本来維持すべき政治的独立は果たして守られるのだろうか」と問い掛けた。(c)AFP/Pierre-Henry DESHAYES