【2月26日 AFP】人や動物にはなぜ、「まつげ」があるのだろうか──。この問いに答えるため、専門家らは長年にわたって議論を闘わせ、さまざまな仮説を提唱してきた。

 これまでの仮説には、目の中に入りそうなものを捉えて集める機能があるとした説や、猫の頬(ほお)にあるひげのような働きをするセンサーとして、風で運ばれる砂粒などの危険を目に知らせているとした説、そして表情を豊かにしてコミュニケーションや性的魅力のための目の影響力を高めるためにあると示唆する説もある。

 このまつげにまつわる謎について、米ジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)の研究者、デービッド・フー(David Hu)氏率いる生物学者チームは25日、これこそが正解だとする説を提示した研究論文を、英国王立協会(British Royal Society)の学術誌「Journal of the Royal Society Interface」に発表した。それによると、空気中に浮遊する微粒子、細菌、ウイルス、ダニなどから目を保護するために、まつげは目の周囲の気流の向きを変えているのだという。

 研究チームは、まつげの別の働きとして、眼球表面の保護膜が乾燥することを防ぐ効果を挙げた。保護膜は粘液、油、水の混合液である涙によって形成される。

 鼻の気道に生えている鼻毛は、ほこりなどを物理的に捕捉するトラップとして機能するが、まつげはそれと異なり、「受動的なほこり制御システム」としての役割を果たしていることを発見。「まつげは、涙の蒸発と微粒子の蓄積を最大50%減少させる」と研究チームは説明した。

 フー氏の研究チームはさらにまつげの謎に迫るため、ヤマアラシから人間まで、哺乳類22種のまつげの長さを測定した。

 その結果、まつげの長さは22種の哺乳類すべてで、目の幅の約3分の1であることが分かった。これは、視界をさえぎることなく、目に当たる気流を最小限に抑えるために最適化された長さになっているという。ほこりの多い乾燥した環境に対処するため、まつげが多層状になっているキリンなどの動物種の場合にも、この規則は当てはまっていた。

 研究チームは次に技術者の助けを借りて、一方の端に哺乳類の目の複製を取り付けた小型風洞を製作した。複製の目は、水の薄い被膜で覆われた直径2センチの皿と、それを取り巻く模造まつげで構成され、風は歩く速度でこの「目」に当たるよう方向が設定された。

 実験の結果、まつげは気流を皿から離れた方向に変えて水の蒸発を防ぎ、微粒子の進路をそらしていることを研究チームは突き止めた。

 この実験結果は、まつげが少ない人ほど、いわゆるドライアイに起因する目の感染症にかかるリスクが高くなるとの医学的所見の裏付けとなる。

 また別の興味深い研究では、アレルギーのある子どもは、そうでない子どもに比べ、まつげが約10%長く濃いことが判明している。これは、まぶたにある特殊な細胞が刺激物に反応し、目を保護する毛の成長を促す「プロスタグランジン」と呼ばれる化合物を放出するためだという。

 つけまつげについては、「ドライアイ」に対抗する武器になる可能性があると今回の研究論文は示唆している。

 他方、まつげのシンプルで、きれいに掃除しやすい構造は、産業デザインのアイデアを生む可能性もある。太陽光パネルを保護するスクリーンなどもその一つだ。論文によると、太陽光パネル表面に蓄積されるほこりなどで、パネルの発電効率は年間約6%減少するという。(c)AFP