【2月23日 AFP】東京・日野市の多摩動物公園(Tama Zoological Park)に非常事態警報が発せられた。警察と救急隊の協力を得て、50人以上の飼育員らが、逃げ出した「ユキヒョウ」を捕獲しようとしている。子供に牙をむく前に、止めなければ──。

 その場にいた子供たちは楽しんでいるが、大人たちは真剣だ。おりから逃げたユキヒョウは、着ぐるみを着た動物園の職員であることは、誰の目にも明らかなのだが。

 これはコントではない。毎年、東京の2大動物園で行われる安全訓練だ。設定はいつも同じ。凶暴な猛獣が脱走し、最後には鎮静剤を打たれて捕獲されるというわけだ。

 毎年変えるのは、その着ぐるみだけ。昨年は上野動物園(Ueno Zoological Gardens)でゴリラが脱走し、その前の年は多摩動物公園でシマウマが逃げ出した。

 着ぐるみ以上に面白いのは、訓練の参加者たちがあまりに大真面目に取り組んでいることだ。そこまでする意味があるのか?

 園長の福田豊(Yutaka Fukada)氏によれば、地震で木が倒れておりが壊れる可能性もあり、動物が逃げた際に迅速に対応することが彼らの義務で、訓練はそのためのものであると語った。

 訓練終了後、主人公を演じたユキヒョウが、仰々しい着ぐるみを脱いだ。「もう少しリアル感があるコスチュームにしたほうがいいと思いませんか?」と、1人の記者が冗談まじりに質問した。しかし、この訓練のために何か月も練習した「ユキヒョウ」にジョークは通じなかったようだ。

 着ぐるみから姿を現した若い男性からは、コスチュームのリアル感を追求するより訓練のリアル感が大事なのです、と真面目いっぺんとうの答えが返ってきた。

 かわいすぎる着ぐるみを選んでいるのは偶然ではない。この「脱走劇」には毎年、日本と外国メディア数十社が取材に来るため、動物園としてはPR効果が絶大だ。

 正直なところ、みんな分かっているはずだ。私たちジャーナリストが取材に行くのは、訓練参加者たちの勤勉さを報じるためではない。警官たちが躍起になって、着ぐるみ姿の男性を追いかける様子を楽しむためだ。だって、こんなおいしい絵柄を見逃すのはもったいないだろう? (c)AFP/Antoine Bouthier


この記事は、東京に拠点を置くAFP通信の映像記者、Antoine Bouthierが書いたコラムを翻訳したものです。