■1日に16人の客をとることも

 キャロルさんによれば、売春宿やバーには12~16人の女性が雇われていた。大半がフランス人で酒や薬物で苦境を紛らわせていた。

 高級バーで働いていた売春婦の中には元医者や元弁護士の女性たちもいたという。「きまりが悪いので家族に連絡するのは難しい。だから助けを求めることもできずに一人で耐えるしかない」とキャロルさんはいう。

 ベルギーでは一部の都市で売春宿経営は認められており、売春婦は個人労働者として登録することになっている。だが、キャロルさんの場合は、税務当局に登録されていなかった。身分証明書は売春宿の責任者に預けたが「盗まれた」と言われ、携帯電話も没収された。

 労働環境は苛酷だった。自分専用のベッドはなく、交代で睡眠を取る。ひっきりなしに客が来店し、「1日に16人の相手をしたこともある」という。

 訪れる客たちは会社員から警察官、サッカー選手、俳優、軍人などさまざま。1回の料金は200ユーロ(約2万7000円)で、このほかにシャンパン1本につき200~250ユーロ(約2万7000~3万4000円)を支払う。

 キャロルさんにはシャンパン1本につき75ユーロ(約1万円)、性行為1回につき90ユーロ(約1万2000円)が支払われていたが、1日30~50ユーロ(約4000~6700円)の家賃や食費、たばこ代、洋服代、メーク用品代を差し引くと、手元に残るのはわずかだった。

 売春宿を訪れる客たちには、許容される行為と禁止行為の説明があらかじめなされるが、しばしば、暴力的になって禁止された行為におよぶ客もおり、キャロルさんは「毎日のように死ぬ思いをした」という。