【2月10日 AFP】彼らを待ち続けて、もう1か月になる。「彼ら」とは、欧州が冬になるとイスラエルに渡ってくる何億羽もの鳥の群れのこと。とりわけムクドリは格別だ。運が良ければ、日没の直前に雲のように現れる彼らの群舞を目撃することができる。

イスラエルのネゲブ砂漠北部のラハト近郊で、日没時に空を舞うムクドリの群れ(2015年2月2日撮影)。(c)AFP/MENAHEM KAHANA

「本物の」自然写真家なら、そうした貴重な1枚を撮るために、草むらの中に10日間隠れるだろう。AFPのカメラマンにそんな余裕はないが、仕事で国じゅうを移動することはできる。だからこの1月、私はムクドリがねぐらにしそうな渓谷の草むらに集中的に目を光らせていた。

 イスラエル北部で、レバノンのイスラム教シーア派(Shiite)原理主義組織ヒズボラ(Hezbollah)のミサイルがイスラエル軍の車列を攻撃したとき、私は現場で2日間撮影を行い、同時に鳥の群れにも注意を払っていた。ゴラン高原(Golan Heights)とヨルダン渓谷(Jordan Valley)にそれぞれ撮影スポットを見つけた。

イスラエルのネゲブ砂漠北部のラハト近郊で、日没時に空を舞うムクドリの群れ(2015年2月2日撮影)。(c)AFP/MENAHEM KAHANA

 だが本当に大規模なムクドリの群れを見つけることができたのは、1月末になってからだった。場所は、ネゲブ(Negev)砂漠北部のベドウィンの村ラハト(Rahat)近郊にある巨大なごみ処理場だ。私は昨年、ここで初めてムクドリの舞を見ていた。

 ラハトでの衝突を取材する仕事が終わった後、私はムクドリの撮影をするために撮影スポットに向かった。

 いったん場所を見つけると、次はタイミングを待たないといけない。ニュースの仕事をしながら、エルサレム(Jerusalem)を出たり戻ったりして、午後4時ぐらいには、その場にいる必要があると分かっていた。ムクドリは日没前に群舞を行うが、毎日とは限らないし、時間も天候によって変わる。どこか違うところで舞ってから、ねぐらに帰ってくることもある。

イスラエルのネゲブ砂漠北部のラハト近郊で、日没時に空を舞うムクドリの群れ(2015年2月2日撮影)。(c)AFP/MENAHEM KAHANA

 7回目か8回目にその場を訪れたとき、彼らは私の目の前で壮大なパフォーマンスを15分ほど行った。幸運なことに、群舞は2日間続けて行われた。最初はゴミ処理場の近くで、次はねぐらから5キロの地点だった。

 彼らの動きは早いため、突然近くに寄ってきたときなどはレンズの交換に大慌てだった。

 昨年、私はハート形になったムクドリの群れを撮り、多くのメディアの一面を飾った。偶然にもバレンタインデーの2日前だったからだ。そして今年も素晴らしい写真が撮れた。2つの黒いボールが膨らんだり渦巻いたり、一緒になって兵士や骸骨、魚、ブーメランの形を作ったり……。

 彼らは日が暮れるなかを舞っていたわけだが、夕焼けと一緒になって赤紫のようなドラマチックな光に見えることもあった。1/2秒ほどだろうか、露出を長くしていた1枚では、ぼやけた線となった鳥たちが、月を背景に空から落ちてくる星のようにも見えた。

 そして突然、群れはねぐらの木に突っ込んでいく。木の枝はムクドリの影で真っ黒になる。

 ムクドリを撮影するコツは、第一発見者であることだ。写真を世に送り出した瞬間、魔法は消える。今回もそうだったが、翌日には多くの群衆が自分たちも一目見ようと押し寄せるからだ。つまり、彼らの舞に魅了されるのは私だけではないということだ。(c)AFP/Menahem Kahana


この記事は、AFP通信のエルサレム在住のカメラマン、Menahem Kahanaが書いたコラムを翻訳したものです。