【1月16日 AFP】「まるでクリスマスがまた来たみたい」――スイス・ジュネーブ(Geneva)中心街の外貨両替所にできた長蛇の列に加わりながら、病院職員のバネッサさん(28)は興奮もあらわに言った。スイス各地では15日、高騰するスイスフランを外貨に両替しようと両替所に人々が殺到した。

 スイス国立銀行(中央銀行)はこの日、3年にわたって維持してきた1ユーロ=1.20フランの対ユーロ上限を撤廃すると発表した。直後、スイスフランは30%近く上昇し、一時1ユーロ=0.8517フランを付けた。

「ニュースは朝に聞いた。とてもうれしい!」とバネッサさんが喜ぶのには、理由がある。バネッサさんの勤務先はスイス国内の病院だが、住んでいるのは国外なのだ。スイスで働きながら、フランスやドイツ、イタリアなどユーロ圏の近隣諸国に生活基盤を置き税金を納める労働者は、スイスに約28万人いる。

 15日のスイスフラン高騰における最大の勝者は、こうした国境をまたいで生活する「フロンタリエ(国境在住者、越境通勤者)」たちだった。収入が一瞬にして30%も増えたのだ。バネッサさんは「スイスフラン預金を全額ユーロに交換するべきかどうか」思案中だと語った。

■住民にも朗報、経済的には「大惨事」

 一方、スイス国内の居住者たちの多くも、スイスフランの高騰に心を躍らせた。海外で長期休暇を楽しんだり、近隣諸国の不動産を手頃な価格で購入したりできるようになるからだ。

「ユーロ圏への旅行が安くなる。フランスに別荘を買いたい人にとっても朗報だ」と、資産管理業を営むシャルル・グトウスキ(Charles Gutowski)氏は話した。

 だが、多額の外貨準備を保有するスイス中銀にとっては、フラン高騰は資産の減少を意味し、スイス大手企業も打撃を受けるだろうとグトウスキ氏は指摘。「多くの問題を引き起こすだろう」とも述べた。

 スイス経済界は中銀の決定を大惨事と称している。スイス銀行大手UBSは、この決定によりスイスの輸出高は50億スイスフラン(約6700億円)相当も目減りし、経済成長を0.7%押し下げるだろうと予測した。

 スイス時計メーカー大手スウォッチ(Swatch)のニコラス・ハイエック(Nick Hayek)最高経営責任者は、スイス通信(ATS)に対し「言葉を失った」と語った。「スイス中銀が巻き起こしたのは津波だ」――同社の株価は15日、16.4%下落した。(c)AFP/Nina LARSON