【1月8日 AFP】抗ウイルス薬治療下にあるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が、体内でどのようにして免疫系の検出を避けているのかに関する重要な手がかりを発見したとする研究論文が、AIDS(エイズ、後天性免疫不全症候群)治療法を探究している科学者チームによって7日の英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。

 米ジョンズホプキンス大学医学部(Johns Hopkins University School of Medicine)などの研究チームによると、活動を抑制されたHIVは、免疫系による検出を回避しやすくする、まるで隠れみののような変異を持つことができるという。

 だが、明るいニュースもある。免疫系がHIVを発見して攻撃するよう訓練することができる可能性が研究室での実験で示されたというのだ。

 論文は、治療法の研究において最も有力と考えられている方法のひとつ「キック・アンド・キル(Kick and Kill)」について言及している。ウイルスを追い出して殺すこの方法は、33年間に及ぶエイズとの闘いの中で最も野心的なものでもある。

 エイズを引き起こすHIVは、抗レトロウイルス薬によって感染が抑えられた後、免疫系の構成要素の一つである「記憶CD4-T細胞」と呼ばれる免疫細胞内に潜伏する。そして治療を中断するとすぐに、HIVが再び活性化し、患者を再度脅かすことになる。

 キック・アンド・キルでは、強力な薬剤を用いてこの「隠れ家」からHIVを追い出し、外に出たところで殺す方法に目を向けている。

 今回の研究では、キック・アンド・キルが非常に難しいタスクであることが示されているが、一方では将来の治療につながる道筋が提供されたともいえる。

 ジョンズホプキンス大医学部のロバート・シリチアーノ(Robert Siliciano)教授(分子生物学)は「HIVを隠れ家から追い出せたとしても、それは闘いの半分に勝利したにすぎないことを、今回の結果は示唆している」と語る。

「活動を抑制されたHIVは、ウイルスを無害化する免疫細胞からの検出を避けるために変異する。そのためHIVが隠れ家から出た後も、免疫系による検出を回避し続けられることが、今回の研究で判明した」

 研究は、HIV感染患者25人の血液サンプルを対象に分析が行われた。10人は感染後ごく早期に薬物治療を開始した患者で、残る15人はHIVが慢性期に移行してから薬物治療を開始した患者だ。

 その結果、特筆すべき発見として、早期に薬物治療を始めた人は、変異がほとんどないHIVを有していることが分かった。

 一方、薬物治療を遅く始めた人は、免疫系の監視を回避する「エスケープ変異」が数多くみられ、HIVは大きく変化していた。

 だが、このような高度に変異した状態にあっても、元からあるウイルスタンパクをごくわずかに保持していることも明らかになった。そして、この変化しなかった「保存」部分が、ウイルスの急所になり得るかもしれないというのだ。