■新たな門出を支援

 社会への適応やリラクゼーションのための手段として動物を活用するという考えは、18世紀にまでさかのぼる。

 その後に登場したオーストリアの精神分析学者ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)や、クリミア戦争(Crimean War)で負傷兵を献身的に手当てした英看護婦フローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale)も、患者の治療に犬などのペットを使うことを好んでいた。

 ドッグセラピーはまた、高い塀に囲まれたボッラーテ刑務所で受刑者らが味わう孤独感への一つの対処策ともなっている。同刑務所は、労働の技能を学びたいと希望する受刑者のため、2000年に実験的に設置された。

 マフィア関連の殺人事件で有罪判決を受け、少なくとも30年の禁錮刑に服しているマウリツィオ(Maurizio)受刑者(36)は、これまで15か所以上の刑務所を転々としてきたが、中でもボッラーテ刑務所は「気晴らしの機会を与えてくれるという点で一番進んでいる」と話す。

 イタリアは、刑務所の収容率が欧州で2番目の高水準にあり、全国平均で78%という高い再犯率がその一因となっている。一方、ボッラーテ刑務所での再犯率はわずか20%だ。

 同刑務所ではドッグセラピーに加え、調理師や電気技師、大工になるための職業訓練や、絵画、ヨガ、園芸、外国語などのコースも提供されており、移送希望者による順番待ちも発生している。移送を希望する受刑者は、従来ほかの犯罪とは区別されてきた性犯罪による受刑者と生活を共にすることに同意しなければいけない。

 未成年者との性的行為で有罪となり服役しているニコロ・ベルガーニ(Nicolo Vergani)受刑者(25)は、出所したら動物関係の仕事に就きたいと話す。生命科学の学位を取得した後は、動物学を専攻したいと考えている。

「将来やりたいことのための準備を少しでもしておくために、ペットセラピーを受けているんだ」。そう語ったベルガーニさんのそばでは、他の受刑者らが、刑務所内に備えられたオーブンで昼食用に焼いたケーキやピザを、犬たちに食べられまいと奮闘していた。

 お気に入りの犬はと聞かれると、「カルメーラだね。彼女はここに来た時、何をすべきなのか分からず、とっても怖がっていた。僕たちが刑務所に入ったときのように。そして今では、僕たちと同じように、ここに慣れてきている」と答えた。(c)AFP/Ella IDE