【12月11日 AFP】中国南部から北部へ水を運び、北京(Beijing)と周辺の水資源不足を緩和しようという大規模なプロジェクト「南水北調工程(South-North Water Diversion、略称:南水北調)」の最初の送水が今月半ばに開始される。しかし、この計画のため送水路の下に故郷の村が沈み、遠く離れた場所への移転を余儀なくされた地方部30万人以上の暮らしは、中国政府が約束した生活の向上とはほど遠いようだ。

 総工費810億ドル(約9兆7000億円)に及ぶ事業の構想は、60年以上前に中国建国の父、毛沢東(Mao Zedong)が提案した。南方地区の長江流域から取水し、3本の送水路を通じて北方各地へ運ぶ計画で、このうち中央のルートでは12月中に送水が始まる。

 中国政府は南水北調により、北京へ年間10億立方メートルの水資源を供給でき、北方地区の各都市における慢性的な水不足を解消できるとしている。世界銀行(World Bank)によれば、中国経済を支える北方地区は全中国人口の約半分を抱えるが、水供給量は国全体の5分の1ほどだ。

 また最近の調査では、北京市民1人当たりの水資源量が120立方メートルに減少したことが明らかになった。これは砂漠地帯が多いアルジェリアやイエメン、イスラエルと同量か、それよりも少ない水準だ。

 一方、国営メディアによると、中央ルートの建設で少なくとも河南(Henan)省と湖北(Hubei)省の33万人が移転を余儀なくされた。このうち大半は職にも就けない状況で、雨漏りのする粗末な家に住み、補償を受け取ったという人はほとんどいない。

 ジア・シンロンさんたちが別の集落に移ったのは今から3年前。何世代にもわたって使われてきた家具や農具を村中で大型トラックに積み込んだ。「新天地」は300キロ以上離れた平原の中に同じ形の家がいくつも並ぶ移民用の集落だった。見た途端に泣き出す人もいたという。

 ジアさんは「不安で一杯だった。家の造りは粗末なもので、天井には最初からヒビが入っていた」と話す。ジアさんの友人は「私たちは国のために犠牲を払った。そして大損したんだ」と語った。