【12月15日 AFP】ブラジル・アマゾンの奥地、アクレ(Acre)州シャプリ(Xapuri)にあるナテックス(Natex)社は、世界で唯一、熱帯雨林に生い茂る天然のゴムの木から採れた樹液を使ってコンドームを生産している。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者が73万人に上るブラジルで、政府が毎年無料で配布する5億個のコンドームのうち、非営利ベンチャーのナテックス社の製品はその5分の1を占め、AIDS(エイズ、後天性免疫不全症候群)の予防において同社は大きな役割を果たしている。

 ナテックスの工場の近く、ゴム樹液採取人のライムンド・ペレイラ(Raimundo Pereira)さん(51)はゴムの木に手際よく切り込みを入れ、白い樹液を採取する。ライムンドさんの正確でスピーティーな手さばきは、同じくゴムの樹液の採取を生業にしていた父親に連れられ、9歳でこの仕事を始めた事実を裏付けるものだ。ライムンドさんはAFPに「51歳の今でも仕事をしている。ここは空気がきれいだから、この仕事は好きだよ。自分の体が持ちこたえる限り続けたいね」と話す。

 ライムンドさんは「愛の工場」という愛称を持つナテックスのコンドーム工場のために働いている。ブラジルのAIDS対策で重要な役割を果たす同社は、業界平均以上の対価を支払うことで地元のゴム樹液採取人に良い仕事を提供している。ライムンドさんは読み書きができないが、森林資源や薬用植物のエキスパートだと自負している。

 3人の子どもたちは現在学校教育を受けているが、彼自身は学校に通ったことはない。だが「今はもう字を読めるようになるために勉強しようとは思わない。工場は社会的な認知と良い給料を与えてくれたので、私は誇りに思っている」とライムンドさんは話した。

■雇用、環境、健康を守るナテックス社

 ナテックス社は同国北部のアクレ州にあるシャプリで2008年に設立された。シャプリは1998年に森林伐採を推進する地元牧畜業者に射殺された、環境保護活動家シコ・メンデス(Chico Mendes)の闘争で名高い。

 ナテックスのディルレイ・ベルシュ(Dirlei Bersh)社長によると、同国で2003~10年まで政権の座にあったルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ(Luiz Inacio Lula da Silva)前大統領の政策により、起業に必要な資金3000万レアル(約13億5000万円)を政府が提供してくれたという。

「ゴムの価格が下がっていた当時の停滞した経済を再び活性化させることと、コンドームを無料配布してエイズ対策を下支えするという意図があった」とベルシュ氏は説明する。だがその頃、カトリック信者が圧倒的多数を占めるブラジルでは避妊具がタブー視されていた。

「最初の頃、人々は馬鹿にしていた。でも今ではナテックスの170人の従業員たちは、会社が担うエイズ予防という役割に誇りを抱いているよ」とベルシュ氏は語る。ナテックス社は現在、約1億個の避妊具を毎年生産しているが、その全てが同国の保健省によって国民に配布されている。

 いずれ生産能力を2倍にしたいとするベルシュ氏は「ナテックスは世界で唯一、『天然もの』のラテックスを使用したコンドームを製造している。その弾性と耐久性は、栽培されたゴムの木から採れるラテックスよりはるかに優れている」と説明する。

 またベルシュ氏は「(同社の)ゴム樹液採取人はゴム1キロあたり8レアル(約360円)を受け取る。この価格は平均より270%高い。そこには製品の価値とともに、採取人たちが森林保護という役割を果たしているということへの対価が含まれているからだ」と語った。(c)AFP/Madeleine PRADEL