【11月27日 AFP】世界最薄だが超強力な驚異の素材「グラフェン(Graphene)」の不浸透性に極小の抜け穴を発見したとの研究論文が26日、英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された。

 グラフェンに関する研究で2010年にノーベル物理学賞を受賞した物理学者、アンドレ・ガイム(Andre Geim)氏率いる研究チームは、あらゆる種類の気体や液体を通さないことで知られるグラフェンが、プロトン(陽子)と呼ばれる粒子を通過させる様子を見て驚いたと話している。

 研究チームはこの予想外の発見を、従来型電池に代わる無公害の燃料電池開発への突破口になる可能性を秘めたものと称賛。小さな抜け穴だが極めて重大な発見と位置づけている。

 今回の研究に参加した英マンチェスター大学(University of Manchester)は、「燃料電池などの水素を基にした技術には、水素原子から電子が離れた陽子のみを通過させる障壁物質が不可欠なので、今回の発見は同技術に革命をもたらすかもしれない」と声明で述べている。陽子は中性子とともに、物質の基本構成要素である原子の原子核を構成している。

 人毛より何倍も薄く、わずか原子1個分の厚みしかないグラフェンは、鋼鉄より強く、最小原子の水素に対しても障壁として機能するため、不浸透性の被覆材や包装材に最適の材料となる。

 実験で陽子が原子や分子と同様にグラフェンにはね返されるかどうかを調べた研究チームは、「既存理論の予測では、陽子の透過性は水素原子と同等とされているので、陽子も当然ブロックされるに違いないと予想していた」と声明で述べた。

「予想に反して、陽子は特に高温状態でグラフェンの超薄板結晶を驚くほど簡単に通過した」

 この結果を受け、グラフェンは、高効率の燃料電池技術のカギとなるプロトン(陽子)伝導性膜の有力候補となったとチームは述べている。燃料電池には、陽子だけを通過させて他の粒子を通さない薄膜が不可欠なためだ。

 一部の電気自動車や非常用発電機などに用いられている電池の一種である燃料電池は、酸素と水素を燃料として使用し、化学エネルギーを電気に変換する。

 論文の共同執筆者、フー・シェン(Sheng Hu)氏は「グラフェンは、極めてシンプルである上、等しく前途有望と思われる。最近では面積1平方メートルのシート単位で生産できるので、市販の燃料電池にすぐにでも応用可能になると期待している」と話した。(c)AFP