【11月15日 AFP】世界で最も感度の高い電波望遠鏡がある米ウエストバージニア(West Virginia)州グリーンバンク(Green Bank)では、携帯電話の呼び出し音よりも牛の鳴き声の方がよく聞こえてくる。

 高さ150メートル、口径100メートルのこの電波望遠鏡は、星の誕生や最期、宇宙から発せられる「ささやきのようにかすかな」電波信号を観測することができる。雪片ひとつが地面に落ちる時と同等のエネルギーの電波信号をとらえるほどの性能だが、これを実現させるためには静寂を極めた環境を必要とする。

 そのため、同州ポカホンタス(Pocahontas)郡の周辺地域は1958年、米国指定電波規制地域(National Radio Quiet Zone)に指定された。WiFi機器や携帯電話から発せられる電波はこうした観測の障害になるため、望遠鏡の半径16キロの地域では、テレビのリモコンや電子レンジなども含め、他の場所では当たり前にある電化製品の使用が禁止または制限されている。

■グリーンバンクへ移り住む人たち

 こうした措置が予想外の結果を生んでいる。人口143人のグリーンバンクが、電磁波過敏症に悩まされている人たちのメッカとなっているのだ。ここへ移り住んできた人たちは一様に、片頭痛などの悩んでいた症状が消えたと述べている。

 7月に中西部ネブラスカ(Nebraska)州から移住してきたチャールズ・メクナさん(53)もその一人だ。建設現場の監督だったメクナさんは、1990年代から体調不良を訴えていたが、自分の使っていた携帯電話が原因だという結論に至ったのは、だいぶ後になってからだ。

 メクナさんは「(症状が電波に)関連があるとは思ってもみなかった」と話す。当初は医師に抗うつ剤を処方されたという。WiFi回線に近づくたび、吐き気や頭痛、不整脈が起こっていたが、グリーンバンクに滞在してから2週間経ったころ、頭痛が消えた。

 50代のダイアン・スコーさんも、夫とアイオワ(Iowa)州で営んでいた農場の近くにアンテナが設置されて以来、症状に悩まされ、2007年にグリーンパークに来ることを余儀なくされた。スコーさんの頭痛は深刻で、以前は電界を遮る「ファラデーケージ」と呼ばれる仕組みの部屋を夫に作ってもらい、そこで過ごしていた。今は「少なくともここでは、未来があると信じることができる。何をしようか、誰を呼ぼうか、といったことを考えることができる」という。

 電磁波過敏症の存在は世界保健機関(WHO)によって認められているものの、公式には疾患として分類されていない。WHOでは16年に携帯電話の危険性に関する公式評価を行うとしている。(c)AFP/Fabienne FAUR