【11月6日 AFP】1億5000万年近くの間、海の捕食者として頂点に君臨していた、滑らかな流線型の体とくちばしを持つ肉食動物のイクチオサウルス(魚竜)。一見すると、長いくちばしを持つマグロのようにもみえるだろうが、イクチオサウルスは魚ではない。

 一説には、イクチオサウルスの祖先は陸生爬虫類で、世界的な大量絶滅を機に海に適応したとされている。だがこの興味深い仮説には長年、カギとなる部分が欠けていた。それは、この海に生息していた生物種がかつて陸上生活に適応していたことを示す証拠だ。

 このたび、この重要不可欠な証拠をついに発見したとする、米国と中国の古生物学者チームによる研究報告が、5日の英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。

 研究チームは10年に及ぶ探索の末、世界初となる水陸両生のイクチオサウルスの化石を発見したという。

 このイクチオサウルスは、陸上でアザラシに似た動きを可能にするためのしなやかに動く大きな足ひれと、海岸に打ち寄せる波の衝撃に耐えるための頑丈な骨格を持っている。

 論文の共同執筆者の一人、中国・北京大学(Peking University)の江大勇(Da-yong Jiang)教授は「これは画期的発見だ」と語る。

「今回の発見の前に見つかっていたイクチオサウルスの化石はすべて、彼らが完全な海生動物であることを示していた」

 イクチオサウルスのような海生爬虫類が約2億5000万年にどこからともなく出現したと思われることは、これまで未解明だったと江教授は、AFPの電子メール取材に語った。

「これは本当に不可解な分岐群」すなわち生物系統の1つだったと同教授は言う。

「これらの海生爬虫類とその祖先との間には、非常に大きなギャップがあった。彼らを祖先に結びつける、また陸地に結びつけるための証拠や情報は何一つ存在しなかった」

 中国・安徽(Anhui)省巣湖(Chaohu)の近くで見つかった化石は、約2億4800万年前に生息していた初期のイクチオサウルス(学名:Cartorhynchus lenticarpus)のものだ。

 くちばしは長さ約40センチと、これまでに見つかっていたイクチオサウルスに比べてかなり短い。しなやかに動く軟骨性の手首が特徴で、骨もこれまでのものより太かった。

 米カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)の藻谷亮介(Ryosuke Motani)氏によると、この化石は「過渡期」を示しているという。

 このイクチオサウルスは海岸近くを泳ぎ、海底から虫を吸い上げて食べていた可能性が高いと江教授は話している。(c)AFP