【11月5日 AFP】ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した男性2人の「自然治癒」に関する遺伝子メカニズムを解明したとの研究論文が、4日の欧州臨床微生物感染症学会(European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases)発行の学術誌「Clinical Microbiology and Infection」に掲載された。この研究結果については、後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)との闘いに新たな戦略をもたらすとされる一方で、慎重な判断が必要とする専門家もいる。

 発表された研究論文は、HIVに感染してもエイズの症状が現れなかった男性2人を対象とした研究に基づくものだ。

 論文を発表したフランス国立保健医学研究所(National Institute of Health and Medical ResearchINSERM)の研究チームによると、HIVは2人の免疫細胞内にとどまっているが、遺伝情報に変異が生じたために不活性化されているという。

 研究チームは、「自然治癒と思われるもの」を経験したと語る2人からサンプルを採取し、抽出したHIVのゲノム(全遺伝情報)を解読。変異は、一般的な酵素「APOBEC」に関連している可能性があると指摘した。

 得られた結果については、「この酵素を使用または刺激することで、治療による治癒への道が開かれる」との声明を発表している。

 だが、今回の結果を疑問視する専門家もいる。

 英ノッティンガム大学(University of Nottingham)のジョナサン・ボール(Jonathan Ball)教授(分子ウイルス学)は、AFPの取材で、「正直な話、今回の論文が査読のために私の所に回されてきたとしたら、すぐに突き返すだろう」と語り、研究チームが機能的治癒の「証拠」を何一つ提示していないと主張した。

 HIVは、ヒト免疫系の「CD4」に侵入し、ウイルス生産工場になるようにCD4を再プログラムすることによって増殖するが、感染者全体の1%に満たない希少グループでは、ウイルスの増殖を抑制してHIV濃度を臨床的に検出不可能なレベルに抑えることが自然に実現される。

 これらの人々は「エリートコントローラー(EC)」として知られているが、どのようなメカニズムでHIVが抑えられているかについては解明されていない。