【11月8日 AFP】美人コンテストと美容整形手術への熱狂ぶりが有名なベネズエラは、世界で最も殺人発生率が高い国の1つでもある。そんなベネズエラで今、まん延する暴力犯罪から身を守ろうと、防弾性を備えた服や車が人気を博している。

 コロンビア出身のデザイナーで、防弾服の制作で知られるミゲル・カバジェロ(Miguel Caballero)さんによると、過去7か月間の売り上げの最大30%がベネズエラの人々によるものだという。

 世界有数の石油産出国である同国は貧富の差が極めて大きく、国連(UN)の統計によると、殺人発生率は人口10万人当たり54人で、ホンジュラスに次いで世界で2番目に高い。

 政府によると毎週4件ほどの誘拐が報告され、さらにNGOによれば、毎日65人が暴力事件によって命を落としているという。それゆえ安全に対する意識は国中に浸透している。

 コロンビアの首都ボゴタ(Bogota)を拠点とするカバジェロさんの顧客は、ベネズエラ人のビジネスマンや政治家だけでなく、同国を旅行する外国人にまで及ぶという。

 さらに、防弾服の需要はコロンビアやメキシコにも広がりを見せ、カバジェロさんは今年4月、ベネズエラにも販売拠点を設けた。

 ベネズエラの首都カラカス(Caracas)で販売を手掛けるロドルフォ・アセンシ(Rodolfo Asensi)さんは、AFPの取材班に、防弾服を実際に見せてくれた。見かけは普通の服と変わらないが、強力な合成繊維であるアラミドで仕立て上げられた防弾服は手触りが異なっている。

 アセンシさんの家族は誘拐に遭ったことがあり、以来防弾服が欠かせなくなったという。

 今までのところ、主な顧客は商店主やビジネスマン、彼らのボディーガード、外国人などで、中には夫や子どもたちの身を守るべく妻たちが防弾服を購入する例もあり、最大2000ドル(約23万円)という代金を糸目を付けずに支払うという。

 アセンシさんは、「日々の生活でどれだけ恐怖感を抱くかによって、防弾服を買うか買わないかが決まる」と語る。

 だが話は防弾服にとどまらない。ベネズエラでは、自家用車の防弾仕様への改造が人気を博し、そうしたサービスを提供する会社の数は、2007年の18社から、現在では40社を超えるまでに増加したという。

 匿名で取材に応じたあるビジネスマンは、自身と妻がそれぞれ所有する車の改造のために4万ドル(約455万円)を支払ったと語った。「もちろん大きな出費だが、家族の安全のためなら支払うよ」と話す彼は、さらに毎月2500ドル(約28万円)をかけてボディーガードを雇っている。(c)AFP/Patricia CLAREMBAUX