【10月30日 AFP】幹細胞を使って、ヒトの胃組織の小さな塊である「ミニ胃」の作製に世界で初めて成功したとの研究論文が29日、英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。この成果により、がん、潰瘍、糖尿病などの研究に拍車がかかる可能性があるという。

 米シンシナティ小児病院医療センター(Cincinnati Children's Hospital Medical Center)などの研究チームによると、実験室のペトリ皿で培養された「胃オルガノイド(組織構造体)」と呼ばれるこの組織は、「胃のミニチュア版」ともいえるもので、未成熟な細胞で構成されているという。

 論文によると、これらは胃細胞に進化するように誘導された多能性幹細胞でできているとされる。多能性幹細胞を「分化」させる、すなわちある細胞をある臓器になるよう誘導するには、その分化する期間である「胚発生過程」で生じる化学的段階を特定する必要がある。

 この化学的段階をペトリ皿で再現したところ、多能性幹細胞は、気道と消化管を形成する細胞の「内胚葉細胞」へと変化した。そして内胚葉細胞を生化学的に誘導し、粘液やホルモンを分泌する胃領域の「前庭部」の細胞が現れた。

 ただ今回作製された胃オルガノイドはまだ予備的な段階にあり、移植用の組織や完全な機能を備えた胃からは程遠いものだという。それでもマウスを用いた初期試験は、胃オルガノイドが消化性潰瘍で生じた胃の穴をふさぐ「継ぎ当て」として機能する可能性があることを示唆している。

 胃オルガノイドはまた、立体構造を形成するよう幹細胞を誘導する方法において重要な前進をもたらしたと研究チームは指摘している。さらに「ミニ胃」として、がん、糖尿病、肥満症などの疾患を研究するための試験台として利用できると、研究チームは声明で述べている。

 シンシナティ小児病院医療センターに所属する発生生物学の研究者、ジム・ウェルズ(Jim Wells)氏は「人間の胃の病気を研究する良い方法はこれまで存在しなかった」「人間の胃は、他の動物の胃と大きく異なっている。今回、ペトリ皿内で作製した胃組織の異種細胞およびその構造と配置は、胃の中で通常みられるものと全く同じだと言える」と述べている。(c)AFP