【10月30日 AFP】インドの18歳の少女は、義理の兄とその友人たちに押し倒され、酸を浴びせられて顔を失った日を、震える声で振り返った。

 インドの最高裁判所は、酸攻撃の被害者には襲われた日から15日以内に10万ルピー(約18万円)の補償を受け取る権利があるとする決定を下している。襲撃された恐怖と、家族内の不和の渦中で、レシュマ・クレシ(Reshma Qureshi)さんは政府から迅速な補償を受け取るはずだった。だが5か月が過ぎても、レシュマさんは一銭の支払いも受けていない。

「片方の目は見えなくなってしまった。けれど助けは来ない」と、レシュマさんは家族と住むムンバイ(Mumbai)の狭いアパートで、AFPの取材に語った。やけどの痛みを和らげようと母親がクリームを塗るレシュマさんの変形してしまった顔には、涙が流れた。

■機能していない政府の補償金制度

 酸による攻撃は、インドに長らくはびこっている。花嫁の持参金や土地をめぐる衝突、それに男性が女性に交際を拒否されたときなど、復讐として公の場で女性が標的にされることが多い。

 たとえ酸攻撃を生き延びたとしても、生存者たちは一生残る顔の傷と、社会的な烙印(らくいん)に向き合うことになる。かつて美しく社交的な学生だったレシュマさんは、今では友人たちと交流することもなく、家の寝台に静かに横たわり、口数や食事量も少ない。

 政府は昨年、痛ましい事件を一掃し、被害者への金銭的支援を改善するために対策を講じた。だが、活動家らによると、状況はほとんど何も変わっていないという。

「この問題に対する認識は依然として全くない」とニューデリー(New Delhi)を拠点とする活動団体「ストップ・アシッド・アタック(Stop Acid Attacks)」のアロク・ディクシット(Alok Dixit)氏は語り、当局は「時間稼ぎ」をしていると非難する。

 インドの最高裁は昨年7月、インドの州政府に対し、酸の販売規制を3か月以内に実施するよう命じた。だが活動家らによれば、酸は今でも容易に購入できるという。

 また最高裁は、被害者は30万ルピー(約53万円)の補償金を受け取るべきだとし、その3分の1は事件後15日以内に支払われるよう命じた。だがディクシット氏は、迅速に一次補償を受け取った被害者を一人も知らないと述べ、また全額補償を受けた人は100事例のうちわずか2人だったと語る。

「人々は補償の申請方法を知らない。当局も知らない」と同氏は述べた。仮に全額が支払われたとしても、複数回に及ぶ形成手術の費用には「全く足りない」という。