【10月29日 AFP】中国広東(Guangdong)省汕頭(Shantou)市の貴嶼(Guiyu)──薄暗い倉庫の床に積み上げられたリモコンの山。プラスチック製スツールに腰かけ、まるでカキの殻から身をはがすように一つ一つ、リモコンから電気回路をはぎとっていく女性たち。

 少し離れた狭い通路では、遠くから出稼ぎでやって来た父と息子が、バケツに入った大量のマイクロチップを洗浄している。古い電話機やパソコンのキーボードを、シャベルでトラックの荷台から下ろす作業に励む男性たちもいる。

 これらの「電子ごみ」は修理して売りに出されたり、金や銅などの金属や部品を取り出されたりしている。「電子ごみ」産業が盛んな貴嶼には、世界中から電気・電子機器廃棄物が集められ、リサイクルされる。

 だが貴嶼の環境は、非常に高い代償を払わされることとなった。不要となった電子ごみはそのまま付近の川に捨てられ、大気にはプラスチックや電子回路、化学物質を燃やす刺激臭が漂う。汕頭大学医学院(Shantou University Medical College)の研究チームが8月に発表した調査報告書によると、貴嶼の大気や河川は重金属類によって汚染され、子どもたちの血中鉛濃度も非常に高いという。

■増加する中国国内の電子ごみ

 過去数十年間、貴嶼で処理されてきた電子ごみのほとんどは、中国外から集まって来たものだった。欧米諸国は近年、自国の電子機器廃棄物の処理に以前よりも大きな力を注いでいる。だが環境活動家らによれば、中国内で発生する電子機器廃棄物の量が近いうちに国外からの電子ごみに置き換わるに十分なほど増大する見込みだという。

 経済の急成長で中国は消費大国に変容。いまや世界最大のスマートフォン(多機能携帯電話)市場となり、電子機器の利用も急増している。

 国連大学(United Nations University)の「電子廃棄物問題を解決するイニシアチブ(Solving the E-waste ProblemStEP)」によると、年間当たりの電気・電子機器廃棄物の発生量は、全世界で4880万トンで、米国が720万トン、中国は610万トンとなっている。

 だが過去5年間の電気・電子機器廃棄物の発生量の伸びについては、米国が13%だったのに対し中国は倍近くのペースで伸びており、このままの勢いが続けば早ければ2017年には米国を抜いて中国が世界最大の電子ごみ排出国となる見通しだ。

■「このままの状況を許してはいけない」

 電気・電子機器廃棄物のリサイクル産業による繁栄と環境へのつけという功罪の両面が、貴嶼ほど明確に表れた場所はないだろう。2012年の地元政府統計によると、貴嶼では住民13万人のうち、およそ8万人が規制の緩い電子機器廃棄物関連の仕事に従事している。

 毎年、160万トンもの電子機器廃棄物が貴嶼を通過する。年37億元(約650億円)規模の利益を生み出すリサイクル産業での働き口を求め、国内各地から出稼ぎ労働者が貴嶼にやってくる。だが貴嶼の名は、電子機器廃棄物ビジネスがもたらす健康被害や環境破壊という面でも世界に広まった。

 貴嶼で育ったという28歳の青年は、かつて家の前を流れていた清流が、今ではまっ黒な川になってしまったと嘆き、「みんな、このままの状況を許してはいけないと考えている」と語った。(c)AFP/Felicia SONMEZ