【10月28日AFP】民主派デモが続く香港(Hong Kong)では、アート作品を守ろうとする人たちが常に待機態勢にある。彼らの使命は、香港政府庁舎前に設置された「アンブレラマン(傘男)」の像などのアート作品を、警察の手から守ることだ。

 1か月に及び続いた香港デモにより、政府庁舎前の1キロにわたる道は、野外展示場と化した。その中心には、高さ3.6メートルの木製の像「アンブレラマン」が立つ。デモ参加者たちが、降りしきる雨と警察が使用した唐辛子スプレーなどから身を守るために雨傘を使ったことを象徴する像だ。

 この道を歩けば、デモ参加者たちがアスファルトにチョークで絵を描いている姿や、折り紙で傘を作っている様子が見られる。

 アート作品を守るチームは警察による弾圧が始まらないか、常に目を光らせている。「雨傘運動芸術保全(Umbrella Movement Art PreservationUMAP)」グループの創設者、ミーガン・マクガーガン(Meaghan McGurgan)さんは「彼らの仕事は私に知らせることだ」と言う。「連絡がきたら、私が待機しているレスキューチームを出動させる」

 こうした政治的で草の根的なプロテスト・アートは、オークションで作品が高値で取引される香港の通常のアートシーンとはかけ離れている。「誰でも見に行けるし、参加できる」と、マクガーガンさんは語る。

 とはいえ、活動家たちは警察が出動すれば、すべてが失われてしまいかねないことも承知している。政府庁舎前の次に大規模なデモが行われている旺角(モンコック、Mongkok)地区にあった作品の多くは、最近の警官隊との衝突で破壊されてしまった。

 多くのアーティストが、自分たちの作品をデモの現場から撤収する許可をボランティアたちに与えている。だが、保管場所を見つけるのは難しい。市内の美術館が受け入れに二の足を踏んでいるからだ。

「電話をかけてみたが、彼らはかけ直してこないか、あるいは政治的な問題だから受け入れられないと答えるかのどっちかだ」とマクガーガンさん。

 活動家たちが保護しようとしているのは、アート作品だけではない。UMAPと提携する組織「雨傘運動視覚文化保全計画(Umbrella Movement Visual Archive and Research Collective)」は、「人々がここでどのようにコミュニティーを形成し、この空間をどう変えていったか」を記録する活動をボランティアと共に行っていると、共同創設者のサンプソン・ウォン(Sampson Wong)さんは言う。

 民主派のスローガンに変えられた交通標識からデモ現場で抗議者たちがつくった居住空間まで、すべてを記録しておこうという運動だ。クラウドを使って、写真やストーリー、デモ現場のインタラクティブな地図などを掲載するウェブアーカイブの立ち上げを目指している。

 UMAPと同様、ウォンさんのグループも、警察との衝突が始まったらデモ拠点を形作るさまざまな物をすぐに回収できるように待機している。「でもそうした物を違う場所に移したら、コンテクスト(背景)がそぎ落とされてしまう。だから私たちは最後の最後まで回収したくない」と、ワンさんは言う。

 地元アーティストのケイシー・ウォン(Kacey Wong)さんは、民主派デモのアート作品は将来の世代のために保護されなければならないと語る。「香港の未来は分からないが、今のところ明るくはなさそうだ。それなら25年後の子供たちが、高度に文明化され希望に満ちあふれていた世界を振り返られるようにしておくべきだ」 (c)AFP/Sarah TITTERTON