【10月24日 AFP】身分を偽っていた警察の覆面捜査官と知らずに恋に落ち、子どもまでもうけた英国人女性に対し、ロンドン警視庁(Metropolitan Police ServiceScotland Yard)が慰謝料42万5000ポンド(約7400万円)を支払うことになった。英紙ガーディアン(Guardian)や英国放送協会(BBC)が23日、報じた。

 英国では、市民の政治活動を監視する任務を負った覆面捜査官が身分を隠したまま女性と性的関係をもっていた例が複数あることが明らかになり、だまされたと憤った女性たちが訴訟を起こしている。このほど慰謝料が支払われることになった「ジャッキー(Jacqui)」さんも、その1人だ。

 ジャッキーさんは、2012年に新聞の報道で初めて1人息子の父親の本当の身分を知り、それ以来ショックで精神科の治療を受けていると話した。ガーディアン紙の取材に「彼は、ボブ・ロバートソンと名乗った。長髪で、熱心な左派青年だった」と、語っている。「でも、実際は警察の秘密捜査官で、環境団体や動物保護団体を内偵捜査する5年間の任務を負っていたんです」

 息子が2歳になった時、「ボブ」はジャッキーさんの前から姿を消した。本来の自分に戻って、実の妻と子どもたちの元へ帰ったのだという。

■グリーンピースの指摘で発覚

 現在は研究者をしている「ボブ」は、英警察内に1968年から2008年まで存在していた特殊任務部で潜入捜査を担当した複数の情報員の1人だった。この元捜査官は、2012年に国際環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)のロンドン支部メンバーから、1980年代に当時反核や環境保護を掲げて活動していたグリーンピースに潜入していたことを指摘され、過去が明らかになった。警察もその後、男性が覆面捜査官だったことを認めた。

 ロンドン警視庁は、ジャッキーさんが「元捜査官との関係で被った苦痛に対し、率直な謝罪を表明する」との声明を発表した一方、任務遂行のために警察の方針として捜査官に性的関係の利用を認めていたわけではないと主張した。

 8月には、ロンドン警視庁特殊任務部の元覆面捜査官4人に対し、女性と性的な関係を持ったことで刑事責任に問われることはないとの判断が下されている。ジャッキーさんの他にも、元覆面捜査官をめぐって複数の女性たちが起こした訴訟が進行中だ。(c)AFP