【10月22日 AFP】抗生物質を動物に投与すると、サルモネラ感染症の症状を悪化させる可能性がある上、一部では投与しない場合よりも多くの菌を拡散させる原因となる恐れがあるとのマウス実験結果をまとめた研究論文が20日、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に掲載された。

 家畜の成長を促進し、一般的な疾病を予防する目的で、健康な家畜に低用量の抗生物質が投与されているが、この行為に対する新たな懸念が今回の研究結果によって持ち上がるかもしれない。家畜への抗生物質投与に対してはこれまで、スーパーバグ(抗生物質が効かない超強力細菌)の増加を促す恐れがあると批判の声が上がっていた。

 米スタンフォード大医学部(Stanford University School of Medicine)の研究チームは、サルモネラ菌の一種であるネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)に感染したマウスに、経口抗生物質を投与する実験を行った。ネズミチフス菌は食中毒を引き起こす恐れがある細菌。

 数週間にわたり大量の菌をふんで排出するため「スーパースプレッダー」と呼ばれる少数のマウスは健康な状態を維持した。このグループのマウスには、抗生物質と感染症のどちらもそれほど影響を及ぼさなかったと考えられた。

 一方で「残りのマウスは、症状が改善するどころか悪化し、そして奇妙なことに、スーパースプレッダーのグループと同様に大量の菌を排出し始めた」とスタンフォード大は今回の研究について説明した声明の中で述べている。

 同大の過去の研究では、スーパースプレッダーではないマウスに経口抗生物質を投与すると、ふんに排出される菌の量が急増することが分かっていた。

 ネズミチフス菌に感染したマウスに抗生物質のストレプトマイシンを投与すると、大半のマウスの腸とふんに大量の病原菌が排出され始めることが今回の研究で明らかになった。

 また治療を受けたマウスの大半は、抗生物質投与後に症状が悪化したようにみえた。

 論文の主執筆者、デニス・モナック(Denise Monack)准教授(微生物学・免疫学)は「これらのマウスは体重が減少し、毛並みが乱れ、飼育かごの隅で体を丸めていた」と語る。「さらに、投与前よりはるかに多量の菌を排出し始めた」

 マウスに別の抗生物質「ネオマイシン」を投与した場合も同じ結果となった。これらの結果は、これらの抗生物質が目的とは逆の影響を及ぼしていることを示唆している。

 モナック准教授は「この結果が家畜にも当てはまるとすると──私は当てはまると考えているが──公衆衛生に明白な影響が生じると思われる」と指摘する。

「えり抜きの抗生物質耐性菌を作り出しているだけでなく、家畜の健康を損ない、家畜および人間の間での伝染性病原菌の拡散を助長している可能性について検討する必要がある」(c)AFP