【10月11日 AFP】 ウクライナのペトロ・ポロシェンコ(Petro Poroshenko)大統領は10日、親ロシア派武装勢力の進出阻止に失敗した東部ドネツク(Donetsk)州のセルゲイ・タルタ(Sergiy Taruta)知事(59)を更迭し、後任に強硬な民族主義者で軍出身のオレクサンドル・キフテンコ(Oleksandr Kykhtenko)氏(58)を任命した。大統領府が発表した。

 タルタ前知事は、親露派の大統領が追放された今年2月の革命後に、ロシア系住民が暮らす反政府的な東部の諸州に任命された親欧米的な新興資本家(オリガルヒ)の1人。

 一部のアナリストは、ポロシェンコ大統領が親露派とロシアへの態度を硬化させるつもりなのではないかと推測している。

 ウクライナの政治評論家ボロディミール・フェセンコ(Volodymyr Fesenko)氏は「大統領が今必要としているのは、安定を確立できる人物だ」「オリガルヒは失敗した。独裁的な人物の出番だ」と語った。

 石油・金属業界で財を成し、昨年、米経済誌「フォーブス(Forbes)」に資産6億ドル(645億円)と評価されたタルタ氏は繰り返し紛争終結の仲介を試みたが、ポロシェンコ大統領が今年9月の停戦協定で制限付きの自治権を親露派に与えると決めたことを批判、ドネツクと隣接の反政府勢力掌握地域ルガンスク(Lugansk)に戒厳令を敷くよう要求して大統領の怒りを買ったと報じられている。戒厳令を敷けば国際通貨基金(International Monetary FundIMF)からの融資が自動的に凍結されるとみられたため、ポロシェンコ大統領はその要求を受け入れなかった。

 さらにウクライナの各種メディアは、タルタ氏がポロシェンコ大統領を差し置いて直接ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に誕生日を祝うメッセージを送り、その中でウクライナでの「人工的な戦争」を終わらせるよう要求したため、ポロシェンコ大統領は今週に入り、タルタ氏更迭の意思を固めたとの見方を伝えている。

 新知事に任命されたキフテンコ氏の当面の課題は、今月26日の総選挙の投票を安全に実施することだ。

 反政府勢力は投票を阻止し、独自の選挙を来月実施すると宣言している。ウクライナ政府と欧米諸国は、反政府勢力が計画している選挙は違法であり、9月5日に結ばれた停戦協定にも違反していると非難している。

 キフテンコ氏は、かつてはウクライナの誇りだった同国軍にはびこった汚職と闘い、これを屈服させた司令官として尊敬されており、現在は小さな民族主義政党「力と名誉」の議会選候補者名簿の筆頭に記載されている。

 政治評論家のタラス・ベレゾベツ(Taras Berezovets)氏は、「現在この地域は、行政官よりも軍司令官を必要としている」と語った。「私見では、ウクライナ政府は今後5~10年間の同地域の統治を失った。いま(ポロシェンコ大統領が)やるべきことは、この地域を新たなチェチェン(Chechnya)にしないようにすることだ」

 ロシア南部のチェチェンは、独立を求める勢力によって20年近くも無法状態が続いている。(c)AFP/Dmitry ZAKS