【10月3日 AFP】疲れ果てた状態で米アラスカ(Alaska)州の海岸に上陸した数万頭のセイウチの大群を保護するため、米魚類野生生物局(Fish and Wildlife ServiceFWS)は周辺を飛行する航空機に対し、群れの近くでの飛行を避けるよう命じた。

 セイウチは航空機のエンジン音を聞くと一斉に海へと逃げ出す恐れがあり、特に子どものセイウチは暴走した大群に踏みつぶされる危険性が高い。FWSによれば、このような暴走行動は、太平洋のセイウチ生息数を減少させている最大の原因として知られている。セイウチは特にエンジン音の変化に敏感で、近くで航空機が転回したり、低空で飛行したりしたときに暴走しやすいという。

 FWSが米連邦航空局(Federal Aviation AdministrationFAA)を通じて出した通達では、上陸したセイウチの群れに対し、航空機は高度2000フィート(約610メートル)以下、半径0.5マイル(約800メートル)以内、ヘリコプターは高度3000フィート(約920メートル)以下、半径1マイル(約1.6キロ)以内には接近しないよう求めている。また飛行条件によりそれ以下の高度を飛行しなければならない場合には、内陸を通過するよう勧告している。

「北極海洋ほ乳類航空調査(Aerial Surveys of Arctic Marine Mammals)」プロジェクトに参加するミーガン・ファーガソン(Megan Ferguson)氏によると、セイウチの数は当初1か所の海岸に1500頭程度しかいなかったが、数日間で爆発的に増え、ほぼ24倍の3万5000頭になったと推定されている。

 セイウチの大量上陸を誘発した原因について、専門家らは気候変動による氷の融解を指摘している。米地質調査所(US Geological SurveyUSGS)によれば、夏季の海氷は、米国とロシアにまたがるチュクチ海(Chukchi Sea)の大陸棚海域のはるか北にまで後退しており、「10年前には発生しなかった状況」になっている。セイウチたちは、海で餌をとる合間の休憩時間を確保しようと岸に上がったとみられるという。(c)AFP