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【AFP記者コラム】「イスラム国」の斬首動画が報道機関に突きつけた課題

2014年9月23日 19:13 発信地:パリ/フランス

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【AFP記者コラム】「イスラム国」の斬首動画が報道機関に突きつけた課題
イラク北部のキルクーク(Kirkuk)と中部ティクリート(Tikrit)の間の橋に立てられたイスラム教スンニ派(Sunni)過激派組織「イスラム国(Islamic State、IS)」の旗(2014年9月11日撮影)。(c)AFP/JM LOPEZ

【9月23日 AFP】シリアやイラク、アフリカでジャーナリストが誘拐、殺害され、イスラム教スンニ派(Sunni)の過激派組織「イスラム国(Islamic StateIS)」とその分派によるプロパガンダのためのおぞましい動画が公開されるなか、私たちAFPも編集倫理の原則を再確認する必要に迫られている。

 私たちに突き付けられた課題は、報道する義務と、記者たちの安全を担保することのバランスをどう取るか。さらには暴力のプロパガンダに利用されないように、そして犠牲になった人の威厳も守りながら、過激派が公開する写真や動画をどこまで報じるかという問題だ。

 このコラムでは、ここ数か月の間に起きた出来事が、AFPのような国際通信社の業務環境をどのように変えたかと、それに私たちがどのように応じたかを記す。

■遠隔地からの紛争報道

 シリアでは現在、AFPは首都ダマスカス(Damascus)に支局を持つ唯一の国際通信社だ。シリア人のジャーナリストたちが常駐しており、隣国レバノンの首都ベイルート(Beirut)から政府軍が支配している地域に記者を送ることもある。反体制勢力の戦況についても、地元の記者から情報を得たり写真や動画を送ってもらったりしている。

 ただ昨年の8月以来、私たちは、反体制派が支配している地域に記者を送ることはやめた。危険すぎるためだ。外国のジャーナリストがそうした無法地帯に飛び込めば、誘拐や殺害されるリスクが高い。AFPに定期的に動画などを提供していた米国人ジャーナリストのジェームズ・フォーリー(James Foley)氏が8月に、ISに殺害されたような悲劇が起こり得るのだ。反体制派が支配する地域では、外国人ジャーナリストはもはや地元住民の苦しみを外部に伝える目撃者としては歓迎されておらず、攻撃のターゲット、あるいは身代金のための「商品」として見られている。

 そのため、AFPはフリーのジャーナリストが、私たちが足を踏み入れない地域で取材してきた素材を受けつけないことにした。これは明確な決定であり、周知するためにもここで念を押しておきたい。フリーの記者がシリアに行って取材してきた情報も写真も映像も、私たちは使わない。

 フリーランスはシリア内戦で大きな犠牲を払ってきた。大きすぎる犠牲だ。そのようなリスクを背負おうとする彼らの背中を、私たちは押したくはない。

 紛争地帯では大抵の場合、ジャーナリストが取材でき休息も取れるような、比較的安全な場所がいくつかあるものだ。だが現在のシリアで反体制派が支配している地域には、そんな場所は1つもない。

 一方、イラクやウクライナ、パレスチナ自治区ガザ、中央アフリカ共和国など他の紛争地帯には、経験ある記者を多く送り、フリーランスとも契約している。報道機関として、紛争を伝えないわけにはいかないが、記者たちの安全には万全を期している。第1に、戦場での取材について訓練を受けたジャーナリストを送ること。第2に、ヘルメットから防弾ベストまで、完全な防護装備を提供すること。現地取材の前と後での詳細なブリーフィングも欠かさない。

 ほかのメディアとの情報共有も不可欠だ。記者たちの安全が脅かされているときに、競争など関係ない。AFPは間もなく、情報共有を目的とした、戦場におけるジャーナリストの安全に関するブログを立ち上げる予定だ。ジャーナリストが拘束されたり銃撃されたりと、危険な目に遭ったら、このブログを警告を発する場として活用するつもりだ。安全対策のための情報をできるだけ多くの人たちと共有すれば、どんなことが危険を招きやすいのか、危険を回避するにはどうすればいいのかが見えてくるだろう。

■次々と公開される恐怖映像

 ISは私たちを恐怖に陥れるために、前例のないやり方でネットを駆使し、私たちに挑んできている。もはやISの支配地域に取材に入るのは不可能に近くなった。つまり、ISが公開するプロパガンダのための写真や動画だけが、私たちがあの地域で何が起きているかを知る唯一の情報源となったのだ。

 それらは残虐で非人道的で、斬首やはりつけ、集団虐殺など、見るに堪えないイメージばかりだ。中東と北アフリカのハブ拠点であるキプロスのニコシア(Nicosia)と、シリアの報道を率いるレバノン・ベイルート(Beirut)でそのような映像を分析する業務を担っているジャーナリストらは、大きな負担を強いられている。

 だが、それらの映像が情報を提供してくれるのも事実である。とくに人質が映っている動画は、生死の確認ができる。だから私たちは目をそらしてはいけない。それらを報じなければならないのだ。

 同時に、数々の編集倫理の問題も突きつけられることになる。人質が首を切断された動画を見たとき、最初に私たちが思うのは、ISのプロパガンダ戦略に手を貸さないためにも契約メディアに送るべきではないということだ。だがそのイメージに情報がある限り、私たち通信社にはそれを伝える責務がある。

 そのため、私たちはこうしたイメージを報じる際には、慎重に行っている。まず、その動画の情報源を特定し、どうやって入手したかを説明する。次に、プロパガンダのための暴力シーンは報じない。これが、先月から相次いで公開された人質の斬首場面をAFPが流さなかった理由だ。

 私たちはそれらの動画から取った何枚かの静止画像のみを公開した。そして、犠牲者の威厳を傷つけないような画像を選んだ。いずれの場合も、犠牲者の顔、「処刑者」の顔、次に殺害されることが決まっている人の顔のクローズアップを公開した。英国人の援助関係者デービッド・ヘインズ(David Haines)氏の場合は、彼の威厳を傷つけないような静止画像を見つけることが非常に難しかった。「処刑者」がヘインズ氏の首にずっと手をかけていたからだ。

 私たちはまた、殺害前の犠牲者の写真を探し、それも公開するように努力している。彼らの死に尊厳を与えるためだ。

 こうしたことは、すべての報道機関が直面している難題だ。同じフランスの主要紙やテレビ局と、この戦場ジャーナリズムの問題について話し合ったこともあるし、英BBC、ロイターやAP通信の意見を聞いたこともある。映像の存在を知っていながら報じないのは、現実を隠ぺいする行為になることは認識しているものの、あのような動画はいっさい公開しないという見解のメディアもある。

 ISの残虐性について「誰にも知らなかったとは言わせない」というのが、おぞましいプロパガンダ映像を公開する際に大半のメディアが引用する主張だ。

 殺害場面を編集なしにすべて公開し、人質がバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領の中東政策を非難している場面まで流したメディアもある。だがAFPはそのように強制的に言わされている動画は公開しない。

 こうした問いに対して、完璧な正解はないだろう。だから私たちはできるだけ冷静に、そして彼らの罠にかからないように慎重でいようとしている。公開するかしないかの決断は、その動画がもつ情報の価値と背景を深く分析してから、ケースバイケースで決める。

 ISの動画はオンラインで多くの人が見ることができる。その事実も、報道機関が公開する、あるいはしないと決断する際の根拠になっている。AFPは、そうした動画を分析して編集することが自分たちの仕事だと思っている。それがジャーナリズムだ。もし私たちが、どこでも見られるからという理由ですべてをそのまま公開すれば、それは付加価値を与えていないということになる。自分たちがやるべき仕事をしていないのだ。 (c)AFP/Michèle Léridon
 

この記事は、AFP通信のグローバル・ニュースディレクターのMichèle Léridonが書いたコラムを翻訳したものです。

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