【9月3日 AFP】ネアンデルタール人が約4万年前に残したある「痕跡」により、彼らの思考能力がこれまで考えられていたよりも洗練されていた可能性があるとする研究論文が、2日の米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)に発表された。

 研究者らは、ジブラルタル(Gibraltar)にあるゴーラム洞窟(Gorham's Cave)深部の壁に縦横に刻まれた「複数の線」を調べ、このような結論に達したという。このような「痕跡」が見つかったのは同洞窟が初めて。

 これらの線は「アート」なのか?──考古学者らはそのあいまいな領域には踏み込まなかったものの、ネアンデルタール人がこれまで考えられていたよりも抽象的に考えたり、表現したりする能力を有していたことを、この「線」は示しているとした。

 ネアンデルタール人研究の専門家、Joaquin Rodriguez-Vidal氏、Francesco d'Errico氏、Francisco Giles Pacheco氏を含む研究チームによる論文は、「洞窟の壁に意図的に描かれた、もしくは刻まれたデザインは、人類の進化における認知機能の飛躍と考えられる」としている。

 ゴーラム洞窟の「複数の線」について、仏国立科学研究センター(National Centre for Scientific ResearchCNRS)のD'Errico氏は「洞窟壁画の最初の例であり、ネアンデルタール人が暮らした洞窟の一部に深く刻みつけられた抽象的な表現」と述べている。

 また研究チームは、ネアンデルタール人がどうやって線を描いたのかを解明するために、ネアンデルタール人が用いたものと同様の道具を使い、直線を描くためにはどれほどの繰り返し作業が必要になるのかを調べた。

 ジブラルタル博物館(Gibraltar Museum)のClive Finlayson館長は、洞窟に描かれているような「一定方向の線を一つ描くためには、繰り返し60回こすりつける必要があった」とし、全部を描くには最大317回必要だったと説明。「偶然についた線ではないことが直ちに分かる。描くためには努力が必要だ」と続けた。

 同じヒト属でありながら、謎の多いネアンデルタール人。彼らは最大30万年の間、欧州や中央アジア、中東地域の一部で暮らしていたとされているが、見つかった痕跡から約3万~4万年前に絶滅したと推定されている。(c)AFP/Jean-Louis SANTINI