■苦痛な記憶

 研究チームは次に、光パルスを使ってこれらの記憶を人為的に再活性化し、マウスに自分の身に起きた事を効果的に思い出させた。

 そしてマウスが過去の出来事を「思い出している」間に、今度は逆の経験をさせた。楽しい記憶を持つマウスには電気ショックを与え、不快な記憶を持つマウスは雌マウスと遊ばせた。

 その結果、新たな経験がもたらす感情は元の感情を圧倒し、マウスの感情を書き換えることを研究チームは発見した。

「実験は同じ環境下で行われた。すると元の恐怖の記憶は消滅した」と利根川氏は述べた。

 こうした記憶の「上書き」は、出来事の前後関係(文脈)による影響を受けやすい海馬を操作した場合にのみ発生し、へんとう体を操作しても同様の結果は得られなかった。

 利根川氏によると、海馬内の文脈的記憶とへんとう体の「快」や「不快」の感情との間のつながりは、経験する内容によって強まったり弱まったりするという。

 研究チームは今回の成果により、うつ病やPTSDなどの気分障害の治療に新たな可能性が開けるかもしれないと期待している。気分障害は、生死にかかわるような、特に大きな恐怖を伴う出来事を経験した兵士らなどの人々にみられる精神疾患だ。

「将来的には、電極のような侵入型の器具を用いずとも、脳内の神経細胞をワイヤレスで制御できるようにしたい」と利根川氏は述べ、また「好ましい記憶を増やして、不快な記憶を上回るようにすることが可能になるかもしれない」と付け加えている。(c)AFP/Katie FORSTER