【8月28日 AFP】記憶と結びついた感情は書き換えが可能で、過去の不快な出来事を楽しい事のように、逆に楽しかった事を不快だった事のように感じさせることができるとの研究論文が、英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された。

 日本と米国の神経科学者らによる共同研究チームによると、このプロセスの背後で機能するメカニズムの発見は、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患に対する現行の精神療法的な治療の効力を説明する一助になるだけでなく、精神医学的支援に新たな道を開く可能性もあるという。

 1987年のノーベル生理学・医学賞受賞者、利根川進(Susumu Tonegawa)氏率いる理化学研究所(Riken)と米マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)の共同研究チームは、光を用いて脳を観察・制御する最新技術「オプトジェネティクス(光遺伝学)」を使用し、過去の記憶を呼び起こす際に起きている事象への理解を深める目的で実験を行った。

 脳の記憶中枢である海馬と、「快」や「不快」の感情を処理する部位と考えられているへんとう体との間での相互作用によって誘発される「ほのぼのとした気持ち」や「激しい恐怖」といった感情は、これまで考えられていたよりも柔軟に変化することを研究チームは発見した。

「それは(楽しい側面または不快な側面が)どれほど強く一方を圧倒するかによって決まる。2つの回路の結びつきの強さの間でせめぎ合いが起きるわけだ」と利根川氏は説明する。

 実験で研究チームは、雄のマウス2グループに光で活性化する藻のタンパク質を注入した。

 これにより、新たな記憶が形成される過程で、その記憶が形成された場所を特定でき、さらに光パルスを用いていつでもその記憶を再活性化することが可能になる。

 一つの雄マウスのグループは、雌のマウスと遊ばせて楽しい記憶を形成させた。もう一方のグループは、飼育箱の床を通して微弱だが不快な電気ショックを与えた。