【8月23日 AFP】スイスの富裕層向け金融大手ジュリアス・ベア(Julius Baer)は21日、ドイツ当局が同行をチューリヒ(Zurich)の裁判所に提訴したことを明らかにした。ドイツ政府は東西ドイツの統一時に所在が不明になっていた数億ユーロ(数百億円)の資金の回収を進めている。

 ジュリアス・ベアはAFPに対し、同行が2005年に買収した銀行が預金の違法な引き出しを認めていたとして1億1000万スイスフラン(約125億円)と利子の支払いを求められていることを認めた。

 同行の広報担当者は電子メールで、「独当局の主張は受け入れられない。当行の利益を守るため、適切な措置を講じた。株主には先の収益報告書ですでに、この件について通知している」と述べた。

 東西ドイツが統一された1990年以降、独政府は東ドイツ政権が隠していた資金を取り戻すべく、各国で多数の訴訟を起こしている。

 ジュリアス・ベアが提訴された件には、オーストリア人の共産主義者で東ドイツの貿易会社「ノーブム(Novum)」を経営していたルドルフィーネ・シュタインドリンク(Rudolfine Steindling)氏が関わっている。同氏はスイスの複数の銀行に送金し、預けていた資金をベルリンの壁(Berlin Wall)崩壊後に引き出したとされる。

 独当局はこの資金について、西側企業から東ドイツに支払われたものであり、シュタインドリング氏に所有権はないと指摘し、ジュリアス・ベアはこの点を認識していたはずだと主張している。

 独当局はこれまでにも同様の問題で、現在はイタリアの銀行大手ウニクレディト(UniCredit)傘下のオーストリア銀行(Bank Austria)スイス支店を提訴するなどしてきた。この裁判では昨年、スイス最高裁が判決を下しており、シュタインドリンク氏の現金引き出しを認めたことに対する損害賠償として、同行に独当局に対する2億5400万ユーロ(約350億円)の支払いを命じている。

 シャネル(Channel)のスーツを好むことで知られていたシュタインドリング氏は、こうした資金の流れについて一切明らかにしないまま、2012年にイスラエルで死去した。(c)AFP