【8月22日 AFP】長く艶のある漆黒の髪の毛が詰め込まれた袋が、中国東部・安徽(Anhui)省太和県(Taihe)の田舎町の道端にあふれている。夜が明けて市場が開くと、中国全土から人毛の卸売人たちが集まり、買い手と値段交渉を始める。

 仕入れ業者のリウ・ヤンウェンさん(35)は「うちの会社には、輸出するために髪を製品化する工場がある」と語る。卸売人のガオ・プーさんは、髪の毛が詰まった袋を広げて「中国の普通の人たちの髪だ」という。値段は長さ50センチほどの髪が、1キログラム当たり5400元(約9万円)程度で売れることもある。

 太和県には、人毛をエクステンションやウィッグなどに加工する会社が400以上もある。加工された製品は米国や欧州、そしてアフリカへと輸出される。70年代にこの商売を始めた草分け的な存在のフー・クアンガオ(64)さんは「昔は地元の人々の髪を使っていたが、今はミャンマーやベトナムなどいろんな国から集まってくる」と語る。

■同県で「過去最大の産業」

 世界貿易機関(WTO)国際貿易センター(ITC)によれば2012年、世界の「鳥の皮、羽根、造花、人毛」製品のうち、中国からの輸出は75%近くを占めた。同年、太和県から輸出された髪は8800万ドル(約90億円)相当で、同県によれば中国全体の半分近い。

 中国の輸出経済が急成長しているこの数十年、太和県のように一つの製品に特化する地域、いわゆる「産業クラスター」が増えている。特に中国東部に多く、80年代以降、貧しい農家が小さな商売を始めたところから、そのうち地域一帯が電球だったり靴下だったり、ライターやブラジャーのホックといった一つの製品に専念するようになった。

 フーさんの息子で後継者のシャンウェイさん(36)の会社は、年間800万ドル(約9億円)相当を主に米国へ輸出している。「国によって求める(髪の)長さや量、質が異なる」と、フーさんはいう。

 アフリカへ輸出するエクステンションが入った箱には笑顔のアフリカ人女性が描かれ、「アフロ・カーリー」と書かれている。「アフリカ経済が成長するにつれて市場も大きくなり、より質の高い商品を求めるようになった」と、フーさんはいう。髪は消毒した後、ブロンドからレッド、パープルまでさまざまな色に染められる。それからオーブンで乾かし、エクステンションやウィッグへと仕上げられる。働いているスタッフの大半は女性だ。

  シャンウェイさんによれば、人毛加工は「太和県で過去最大の産業」だ。地元では人毛産業の工業団地を造る計画もある。

 80年代の子供のころを振り返りながら、シャンウェイさんは「トウモロコシの代わりに米が食べられたらすごく幸せだった」という。それが今や200人以上の常勤従業員を雇い、外国の取引先を外車に乗せて地元の高級レストランを案内するほどになった。「人毛産業のおかげだ」と彼はいう。「髪の価値はすごく高い。だから『黒いゴールド』とも呼ばれている」(c)AFP/Tom HANCOCK