【8月19日 AFP】新たに注文したプライベートジェット「ボンバルディア・チャレンジャー(Bombardier Challenger)850」の内装に高価なカーボンファイバー(炭素繊維)を使ってくれとの中国人の顧客からの要望に、米航空サービス「フライイング・カラーズ(Flying Colours)」社の担当者は驚きを隠せなかった──。

 カラーズ社の販売部門取締役副社長、ショーン・ギレスピー(Sean Gillespie)氏は、「認可される範囲内であれば顧客の希望に沿う。これまでもカーボンファイバーを使ったことはあるが、通常はデザインとして使う程度」と話した。

 中国のプライベートジェット(ビジネスジェット、エグゼクティブ・ジェットとも言う)市場は小規模だが、同国の急速な経済発展を背景に急成長を遂げた。

 調査会社アジアン・スカイ・グループ(Asian Sky Group)によると、米ガルフストリーム・エアロスペース社製のプライベートジェットが初めて中国市場に入ってきたのは2003年。10年後の13年の時点では、中国国内のビジネスジェット機は248機となり、前の年から28%増えた。

 プライベートジェットの愛用者には、中国の電子商取引大手アリババ(阿里巴巴、Alibaba)のジャック・マー(Jack Ma)会長や、不動産開発大手・大連万達集団(Wanda Group)の王健林(Wang Jianlin)会長などが挙げられる。

 中国の航空コンサルタント会社、中国公務航空集団(China Business Aviation Group)の廖学峰(ジェイソン・リャオ、Jason Liao)最高経営責任者は「購入者は20代から70代までさまざま。業界も不動産や投資、石油、ガスなど幅広い」と説明。唯一、共通しているのは、プライベートジェット購入のための潤沢な資産があるということだと述べている。

 メーカー各社も、細かな部分で中国人顧客の心をつかもうとさまざまな工夫を凝らしている。ガルフ社は炊飯器を置くスペースを設け、ブラジルのエンブラエル(Embraer)社はアイパッド(iPad)などの端末から、照明や空調設備を調整できるようにした。またエアバス(Airbus)ではマージャン用のテーブルが機内に用意されているという。

 エアバスと英市場調査会社レッドバリー・リサーチ(Ledbury Research)によると、中国の富豪がプライベートジェットで向かう先は香港(Hong Kong)やマカオ(Macau)、シンガポールといったアジア近郊都市が最も多く、そこでギャンブルや娯楽を楽しむとされる。しかしこのような短いフライトで利用するにもかかわらず、中国の顧客は太平洋を越えて北米まで飛行できるような機体をあえて選ぶという。

 だが、そんな中国のプライベートジェット市場にも一部では暗雲が垂れ込め始めている。その背景には経済の鈍化やインフラ不足といった問題のほかに、空域の大部分が軍の管理下にあるため飛行経路が制限されているといった事情があるようだ。

 さらに、12年11月に発足した習近平(Xi Jinping)新政権による緊縮政策と汚職撲滅運動で、一部には買い控えの動きもみられるという。ボーイング・ビジネス・ジェッツ(Boeing Business Jets)のステファン・テイラー(Stephen Taylor)社長は「市場は2年前は急速な成長を遂げていた。だが新政権が発足し、ぜいたくに厳しい目が注がれるようになってからは、その勢いは衰えている」と述べた。(c)AFP/Bill SAVADOVE