■「国や家族のために命をなげうった」

 神風特攻隊の生存者数については公的な統計はない。特攻隊は現代の教科書にもほとんど記述されておらず、人々の記憶の中から薄れていった。

 だが、同名のベストセラー小説を映画化した『永遠の0(The Eternal Zero)』は今年の初めにヒットを記録し、特攻隊の記憶を人々によみがえらせた。

 映画のストーリーは、妻に生きて帰ると約束したことから特攻を拒否していた海軍パイロットが、最終的に戦友に家族の面倒を託し特攻を選ぶというもの。

 都内の大学に通うナカムラ・ツルギさん(18)は映画鑑賞後に「僕は特攻隊員を尊敬します。彼らは国や家族のために命をなげうった」と語った。「特攻隊は格好いい。かれらのミッションを非難することはまちがっていると思う」

 元神風パイロットのカガワ・コウゾウさん(89)はこうした議論にはほとんど関心を示さない。

 カガワさんは、特攻の善悪に審判を下すことは拒否するが、いたずらに命を落としていった仲間のパイロットたちの光景が、今もまだ頭を離れないという。カガワさんの番はついに来なかった。

「われわれ生き残った特攻隊員はそれが正しかったとか悪かったとか判断できない。でも連中の顔を思い出しながら『悪かったな、貴様だけ殺してしまって』と今でも御霊に声をかける」

 鹿児島県南九州市は今年、神風特攻隊の遺書を国連の記憶遺産に登録申請し、中国と韓国から反発を買った。また安倍首相は7月に集団的自衛権行使を認める憲法解釈の変更を強行し、国内で激しい抗議の声を巻き起こした。

 カガワさんにとって、特攻が間違いだったことは疑いようがない。だが日本の軍事力を純粋に自衛だけの役割に制限しておくべきかどうかについては、そこまで確信が持てない。

「特攻は二度とあってはならない。でも、平和はタダじゃない」「防衛なしに平和はまもれない。安倍総理は少し急ぎすぎているような気もするが、やっていることは理解できる」とカガワさんは語った。