■「新たな住人」が利用する未来像

 ドイツのゲアハルト・シュレーダー(Gerhard Schroeder)前首相率いる中道左派政権は2002年に原発の全廃を決定した。保守派で次期首相のアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)氏は、就任当初に同決定を一度破棄しているが、2011年の福島第1原子力発電所事故を受け、再び脱原発にかじを切った。

 オブリハイム原発の解体は、各関係当局が全工程を詳細に精査・承認するという長い準備段階を経て2008年に始まった。

 解体後に安全な場所を残すことを目指し、バラバラになったすべての廃材は詳細に記録され、作業は規定の順序どおりに行われている。

 いつの日か、空き部屋になった事務所や倉庫、そして原子炉を収容していた巨大なドーム型の建造物までもが、新たな住人を迎え入れるかもしれないと、現場管理者のマンフレッド・モラー(Manfred Moeller)氏は語る。

■4兆円規模の廃炉費用

 ドイツ第3の電力会社のEnBWにとって、オブリハイムの解体は経験を積むための絶好の機会だ。

 EnBWも競合各社と同様、政府のエネルギー転換政策に基づき、いずれは全原発を停止・解体しなければならない。

 EnBWの原発4基のうち2基は福島原発事故の直後に操業を停止した。だが残りの2基はあと数年間は稼働する。

 ドイツ国内で現在稼働している原発は9基。2022年までに全原発を停止する計画で、EnBWのネッカーヴェストハイム(Neckarwestheim)の2号炉が最後に停止する予定だ。

 ドイツの電力各社は引当金として解体作業の費用を準備している。EnBWは70億ユーロ(約9600億円)を用意し、ドイツの電力4社の総額は300億ユーロ(約4兆1000億円)に上る。