【7月15日 AFP】 グラス1、2杯の酒はむしろ心臓によい──酒を飲む人が好んで引用するこの医学的見解だが、英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical Journal、BMJ)にこのほど発表された研究論文によると、この長く信じられてきた考え方には問題がある可能性がでてきた。

 論文は、アルコールの摂取を少量でも控えることで、冠状動脈性心臓病のリスクを軽減させ、体重の減少や高血圧の抑制にもつながると説明している。

 研究では、飲酒の習慣と健康についての研究論文50件が調べられた。対象とされたのは26万人以上の欧州系の人々。

 研究者らが特に注目したのは、ADH1Bと呼ばれる遺伝子。これまでの研究では、この遺伝子の変異により、アルコールがより早く分解され、依存症リスクが軽減されるとしていた。

 今回の研究では、ADH1Bの変異を持つ人は持たない人に比べて1週間あたりのアルコール摂取量が17%少なく、深酒についても78%の確率でしないとの結果が示された。さらに冠状動脈性心臓病リスクは10%低く、血圧の最高値および肥満の可能性も低かった。

 論文では、「アルコール摂取量が普段から少ない人でも、それをさらに減らすことで、心臓血管の病にかかるリスクを低減できる」と結論付けている。

 一方、同研究がこれまでの定説に挑んだという意味で興味深いと評価しながらも、議論し尽くされていない点があるとして、慎重に判断すべきだとの指摘が出ている。

 問題とされたのは、同研究が統計的なアプローチだけに基づいている点とADH1Bの変異を持つ人がなぜより健康であるのかについて解明していない点で、ADH1Bの変異を持つ人にだけに当てはまる何らかの要因が存在している可能性がある限り、飲酒について一般的な「助言」をするのは危険とされた。

「この遺伝子変異を持つ人に、(研究で)考慮されていない何かしらの行動パターンや特質などがあって、それが心臓疾患のリスクを軽減しているのかもしれない」と、ロンドン大学キングスカレッジ(King's College, London)のティム・スペクター(Tim Spector)氏は英国の科学メディアセンターに語っている。

 一般的に軽~中程度の飲酒とは、1週間のアルコール摂取量が12~25単位とされている。アルコール度数5%のラガービール330ミリリットルで1.6単位、アルコール度数12%のワイン125ミリリットルの単位は1.5程度だという。(c)AFP