【5月22日 AFP】シャイで天才的な才能を持った仏人ファッションデザイナー、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent )。彼の悲劇的な半生を描いた伝記映画がカンヌ国際映画祭で上映された。

 ウィメンズのプレタポルテやマスキュリンなタキシードスタイルでファッション界をリードしたイヴだが、ベルトラン・ボネロ(Bertrand Bonello)監督の映画『Saint Laurent(原題)』の中では、セックスや薬物に溺れる姿が描かれている。

■イヴ・サンローランの生涯を描いた2つの映画

 本作で描かれるイヴは、今年始めに公開されたジャリル・レスペール(Jalil Lespert)監督の映画『イヴ・サンローラン(原題:Yves Saint Laurent)』に登場するイヴの姿とはかけ離れている。

 プロデューサーのエリック・アルトメイヤー(Eric Altmayer)氏は、レスペール監督がイヴを題材にした映画を撮影していると知って驚いたと語った。

 アルトメイヤー氏らの映画とは異なり、レスパール監督の映画は、イヴ・サンローランの恋人であり、ビジネスパートナーでもあったピエール・ベルジェの全面的なサポートを受けている。ベルジェ自身も公の場でこの映画を称賛しているほどだ。

 「私達はシャツ一枚すら提供してもらえませんでした。衣装はコレクターの方からお借りしました。映画に出てくるドレスは全て作り直したものです。スタジオも一から作りましたし、膨大な時間と労力を費やしました」とアルトメイヤー氏は語った。

■成功の影にあった闇

 2008年に71歳で亡くなったイヴは、ファッションの歴史の中でも、最も影響力のある一人だと考えられている。

 彼がデザインしたトラビーズのドレスや女性用のタキシード「スモーキング」は、今日の女性のスタイルにも多大な影響を及ぼしていると専門家は分析する。

 トレードマークだったヘルメットのように盛り上がった髪形とべっこう縁の眼鏡をかけてイヴを演じた俳優のギャスパー・ウリエル(Gaspard Ulliel)は、映画の制作過程を振り返る中で「イヴはほとんどの間、抑うつ状態にありました。少なくとも思春期の頃から彼は鬱に苦しんでいました」と語った。

 「もともと虚弱でナイーブだったことに加え、同性愛者だったことが彼を一層軽はずみで奔放な行動へと駆り立てました。彼の成功の要因の一部は間違いなく、そうした自分への復讐に因るものでしょう」

 ボネロ監督の映画では主に、1967年から76年までのイヴの姿が描かれている。その中には、同性愛者同士のセックスパーティーや、当時イヴのミューズだったベティ・カトルー(Betty Catroux)やルル・ドゥ・ラ・ファレーズ(Loulou de la Falaise)とナイトクラブで酒に酔い、ドラッグを使用するシーンなども収められている。

 ボネロ監督は、「サンローランがいかにサンローランになったか」という典型的な伝記映画を制作するつもりはなく、「サンローランが一年間に4つのコレクションを発表し、スターになるためにどれほどの犠牲を払ったか」ということを描き出したかったと語った。

■批評家たちの評価は・・・?

 批評家達の多くは、レスパール監督の作品よりも、ボネロ監督の作品を高く評価したものの、大きな感動はなかったとしている。『バラエティ(Variety)』誌は、「ばかばかしく、ほとんど感動しなかったが、サンローランの芸術性をこれ見よがしに褒め倒したライバル作品よりはよかった」、「ボネロ監督の作品は、ドラッグや欲望、荒淫があったものの特別ドラマティックとは言えないイヴの人生に観客が興味を持つかどうかにかかっているだろう」と批評した。

 また、エンターテインメント情報誌「ハリウッド・リポーター(Hollywood Reporter)」は、「この脚本でデザイナーの自己破壊的な人格を理解することはほとんど不可能」と評し、「レスパール監督の作品より47分長いものの、だからと言って特別良いわけではない」と辛口のコメントを寄せている。(c)AFP/Helen ROWE