【5月11日 AFP】中国がベトナムと領有権を争っている南シナ海(South China Sea)の西沙諸島(パラセル諸島、Paracel Islands)近海に石油掘削装置(リグ)を設置したことについて、専門家は政治面や外交面で短期的にどのような代償を払っても法律上の請求権を主張し、実際の海域支配を強めるのが中国の目的という見方を示している。状況が米国の思うつぼになる可能性も指摘されている。

 中国がバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領のアジア歴訪の直後に南シナ海で深海掘削装置を搬入しようとした動きは、11日の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を前に船同士の衝突を引き起こした。中国は70隻規模の船舶を現場海域に展開中と報告されている。

 南シナ海をめぐる問題で中国とフィリピンとの緊張も高まっている。フィリピン政府は国連(United Nations)海洋法条約に基づく仲裁手続きを開始したものの、中国政府は近隣諸国・地域との直接交渉を望んでおり、仲裁を断固として拒否している。

 専門家らは、中国政府は国営中国海洋石油(CNOOC)による掘削を長期的な石油探鉱計画の一環と位置付けているものの、今回の件でエネルギー確保は二次的な要素だったという見解を示している。中国はむしろ、いわゆる「主権に関わる出来事」を今回の動きを通じて改めて示そうとしている様子があり、これは係争海域を中国が支配していると誇示することを狙った大きな戦略の一部だという。

 中国の政治に詳しい香港科技大学(Hong Kong University of Science and TechnologyHKUST)のバリー・ソートマン(Barry Sautman)准教授は、「中国政府は南シナ海や東シナ海(East China Sea)の種々の小島について請求権を維持するため、強硬な姿勢を取っているように思える」とコメント。

 ソートマン氏は、「国際法によれば、領土問題を抱えている全ての国家は定期的に何らかの行動を起こし、当該領土に関心を持っていることを表明する必要がある」と語った上で、「これが政治面で中国にプラスになるかどうかは、言うまでもなく別の問題だ」と付け加えた。

 中国政府は、西沙諸島付近で掘削を進めるのは「全く理に適っており、合法的かつ正当」だとして自国の行動を擁護。同諸島は中国が南ベトナム軍(当時)を排除した1974年から中国の実効支配下にあるものの、ベトナム政府は依然として領有権を主張している。