【5月4日 AFP】天然痘の感染が最後に報告された1977年以降、新たな患者の発生は確認されていていない。しかし、天然痘を研究する科学者らは1日、このウイルスに関する重要な研究は現在も継続中だと主張し、保存されている生きた天然痘ウイルスの廃棄に反対する意見を表明した。

 世界保健機関(World Health OrganizationWHO)の最高意思決定機関である年次総会は今月、天然痘に関する今後の研究について協議を行い、残されている生きたウイルスを廃棄するか、保管して研究を継続するか決定する。

 発疹などの症状を引き起こし、失明や死亡の原因ともなり得る生きた天然痘ウィルスは現在、厳重な警備体制の下、ロシアと米国の研究所で保管されている。

 総会を前に、廃棄の反対を訴えて米医学誌「プロス・パソジェンズ(PLoS Pathogens)」に寄稿したのは、米疾病対策センター(Centers for Disease Control and PreventionCDC) のインガー・デイモン(Inger Damon)氏、リオデジャネイロ連邦大学(Federal University of Rio de Janeiro)のクラリサ・ダマソ(Clarissa Damaso)氏、フロリダ大学医学校(University of Florida College of Medicine)のグラント・マクファーデン(Grant McFadden)氏だ。

 3人は、「(天然痘ウイルスに関する研究は)これまでにかなり進歩してきたが、生きた天然痘ウイルスについての研究は完了しておらず、不明な点が数多く残されている」と指摘。

 天然痘ワクチンは供給数が限られている上、1960~70年代に開発されたものであることから、その使用によって「現在では容認不可能と判断される高い確率で有害事象が発生し、中には重篤な症状が引き起こされる場合もある」と訴えている。

 各氏はさらに、天然痘ウイルスはヒトにしか感染しないため、動物モデルではヒトに生じる疾患が正確に再現されるわけではなく、ウイルスの作用についてさらに理解を深める必要があると主張している。

 WHOによると、1980年に根絶が宣言された天然痘はヒトに感染するウイルスのうち、人類が根絶した唯一の感染症だ。(c)AFP