【1月30日 AFP】動物の細胞を多能性細胞に初期化する簡単な方法を開発したとの日本の研究が29日、発表された。移植用の細胞組織を研究室で培養する方法に「大変革をもたらす」方法となる可能性がある。

 英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載されたこの研究は、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)に続き、幹細胞研究において第3の大きな進展となる可能性がある。この新たな方法を用いれば、幹細胞研究におけるコストと技術のハードルが大きく下がるかもしれない。

 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)のクリス・メーソン(Chris Mason)教授(再生医療)は「ヒトでもうまくいくなら、これは大変革をもたらす可能性があり、究極的には、患者本人の細胞をもとの素材として幅広い細胞治療を行うことができるようになる」と述べた。

 幹細胞は、脳や心臓、肝臓などの器官を構成するさまざまな種類の細胞に分化することのできる細胞。幹細胞を培養してさまざまな種類の細胞に成長させる技術を開発し、事故や疾病で損傷した器官に組織を補充することが目標だ。

 2006年、京都大学(Kyoto University)の山中伸弥(Shinya Yamanaka)教授率いる研究チームは、iPS細胞の開発に成功し、山中教授は2012年ノーベル医学生理学を受賞した。

 iPS細胞は、成熟した細胞に4遺伝子を導入して幹細胞を作る。だが、腫瘍を生み出してしまうという問題を克服しなければならなかった。現在も効率の面──成熟細胞のうち幹細胞にすることができるのは1%に満たない──で課題に直面している。

 神戸の理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(RIKEN Center for Developmental Biology)の小保方晴子(Haruko Obokata)氏らが開発した最新の方法は、驚くほどローテクで、全く異なるアプローチをとっている。

■「多能性の特質」備える

 生まれたばかりのマウスの白血球を酸性の溶液に25分浸した後、5分間遠心分離機にかけ、7日間培養することで、この細胞は多能性細胞に戻った。

STAP(刺激惹起性多能性獲得)細胞と命名されたこの細胞は、新しい境地を開く画期的な発見になるかもしれない。これまで、環境要因だけで細胞の状態を初期化する方法は、植物の細胞でのみ発見されており、ほ乳類の細胞では発見されていなかった。

 小保方氏は28日、STAP細胞は多能性の特質を全て備えているとインターネットを通じた記者会見で述べた。

 ただ、STAP細胞は自己複製能力に限界があるとみられる。また、ヒトの細胞からでもつくりだせるかどうかはまだ分かっておらず、ヒト細胞への適用の研究はまだ先になる見込み。(c)AFP/Richard INGHAM