【1月14日 AFP】中産階級のパリっ子の快適な生活は多くの人の憧れだろう。だが、フロランス・ポーセル(Florence Porcel)さん(30)は、火星に永住する初めての地球人になるためなら、たとえ二度と地球に戻れなくてもパリでの生活を潔く手放すという。

 宇宙マニアを自称するジャーナリストのポーセルさんは、人類初の火星コロニー建設を計画する非営利企業「マーズ・ワン(Mars One)」のプロジェクトで、火星への片道旅行の候補者に選ばれた1058人のうちの1人だ。ポーセルさんはAFPに「地球にいるといつも窮屈な感じがする。別世界の探索をいつも夢見ていた」と喜びを語り、「私はパイロットでも医者でもエンジニアでもない。だから普通の方法では宇宙飛行士には絶対なれない」と話した。

 火星への片道旅行への応募者は全世界から約20万人。候補者は最終的に24人に絞られる。プロジェクトのコストが60億ドル(約6200億円)と高額なため、復路の選択肢はない。プロジェクトには主にリアリティー番組が出資することになっている。

 オランダが拠点の「マーズ・ワン」によると、2024年から6回に分けて宇宙飛行士を送り出す。5500万キロ離れた火星に6か月かけて到着し、気温が低く、乾燥し、酸素濃度の低い火星での生活をスタートさせる。

 13年12月30日に1次選考通過の通知を受け取ったのは世界140か国の1058人。「マーズ・ワン」によると、評価基準は「不屈の精神と的確な判断力、遊び心」などで、病歴や麻薬歴がなく、英語を話すことも求められた。今後、医学検査と心理適正検査を行い、最終的に15年に24人を選考する。

 火星に送られる人々を待ち受けるのは、非常に薄い大気と氷点下の気温から保護するポッドの中で食料を栽培するなど、厳しい環境だ。

 ポーセルさんのアパートのリビングはサクランボ色のカーペットやハート形の鏡などが置かれ、居心地の良い少女っぽい内装だが、天井から吊るされた太陽系のモービルに無重力を体験するテスト飛行で無重力空間に浮かぶジャーナリストの写真、天体物理学に関する数多くの本など、宇宙への情熱が随所にみられる。

 米国の月面着陸計画は1972年に終了した。ポーセルさんは「私は地球以外の天体に人間が降り立つのを見たことがない世代。もしマーズ・ワンがチャンスをくれたら必ずやってみせる。人類初となるでしょう!」と述べた。ポーセルさんは家庭を持ったり、子どもを持ったりする予定はないという。

 マーズ・ワンのプロジェクトは、1999年にノーベル物理学賞を受賞したオランダのヘーラルト・トホーフト(Gerard 't Hooft)などが支持するが、懐疑的な見方もある。

 ポーセルさんは「今はただ、最後までやり通す覚悟でいる。24人のうちの1人になって発射台に立ったら違う気持ちになるかもしれないけど…」と話し、「私には考え直す権利もある」と加えた。(c)AFP/Laurent BANGUET